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東京地方裁判所 平成2年(ワ)13186号 判決

原告

甲野太郎

被告

右代表者法務大臣

前田勲男

右指定代理人

松村玲子

外四名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は原告に対し、金三二四万円及びこれに対する平成二年一一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  本件訴訟の概要

原告は、東京拘置所(以下「本件拘置所」という。)において、昭和五〇年七月二二日から未決勾留により、昭和六二年四月二一日からは死刑確定者として拘禁されている者である。訴外東京拘置所長(以下「本件拘置所長」という。)は、本件拘置所の長として原告に対する拘禁を執行している国家公務員である。訴外東京都葛飾区選挙管理委員会委員は、原告が住民登録している葛飾区の選挙人名簿を調製保管する地方公務員である(以上の事実は当事者間に争いがない。)。

本件訴訟は、本件拘置所長が原告の処遇について執った後記の本件第一ないし第一〇措置及び東京都葛飾区選挙管理委員会が原告を同区選挙人名簿に登載しなかったことに関する国会及び内閣総理大臣の対処の違法をいう本件第一一措置について、国家賠償法一条に基づき、本件第一ないし第一一措置につきそれぞれ慰藉料二一万円、二一万円、一万円、五万円、五〇万円、五万円、一五〇万円、六万円、一〇万円、四五万円及び一〇万円、合計三二四万円の損害賠償並びにこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成二年一一月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めたものである。

第三  本件第一措置について

一  前提となる事実(以下の事実は、括弧内にその認定証拠を掲げた事実を除いて、当事者間に争いがない。)

1  原告は、武装闘争組織「東アジア反日武装戦線」を結成し、海外進出企業等に対して継続して爆弾による爆破闘争を行うことを企図し、昭和四九年八月三〇日の三菱重工爆破などのいわゆる連続企業爆破事件を引き起こした被疑者として、昭和五〇年五月一九日、警視庁三田警察署に逮捕され、右事件について爆発物取締罰則違反等の罪名で起訴され、一、二審で死刑判決を受け上告したが、昭和六二年三月二四日、上告棄却の判決を受け、右判決は同年四月二一日に確定した。

右逮捕の後、原告は、昭和五〇年七月二二日、三田警察署から本件拘置所へ、同年一一月一一日に本件拘置所から丸の内警察署へ、翌一二日丸の内警察署から本件拘置所へ移監された(乙二、弁論の全趣旨)。

2  本件拘置所においては、「収容者に閲読させる図書、新聞紙等取扱規程」(昭和四一年一二月一三日矯正甲第一三〇七号法務大臣訓令、以下「取扱規程」という。)及び「収容者に閲読させる図書、新聞紙等取扱規程の運用について」(昭和四一年一二月二日矯正甲第一三三〇号矯正局長依命通達、以下「運用通達」という。)に基づき、雑誌、新聞紙等の閲読を希望する者に対し、収監時に、①閲読に支障があると認められる部分は抹消され又は切り取られること、②切り取られた部分並びに閲読後の雑誌及び新聞紙は廃棄されることの二点について同意を求め、同意に応じた場合に右条件を明記した願箋「交付願」を徴することで在監中の閲読を包括的に許可することとし、また、抹消又は切取りを要する単行本の閲読を希望する者に対しては、その都度、①閲読に支障があると認められる部分は抹消され又は切り取られること、②切り取られた部分は廃棄されることの二点について同意を求めて、同意に応じた場合に右条件を明記した願箋「交付願」を徴し、個別に閲読を許可する扱いとしていた。

原告も、本件拘置所に収監された昭和五〇年七月二二日に、前者に相当する雑誌等に関する願箋「交付願」を提出している。

3  原告は、昭和六二年一一月当時、本件拘置所内において、日刊紙「朝日新聞」(以下「朝日新聞」という。)を講読していた。同月下旬ころ、ダッカ事件で国外釈放されていた乙川一郎が国内に潜入して逮捕されるという事件が起き、朝日新聞もこの事件を詳しく報じた。また、右各記事に先立ち、米国の収容施設暴動の記事も掲載された。

本件拘置所長は、右事件等を報じる朝日新聞の記事二四か所(以下「本件各記事」という。)を原告が閲読することを不許可とし、別表1のとおり抹消を加えてから原告に交付した(以下「本件第一措置」という。)。

二  争点

1  原告の主張

(一) 死刑確定者の法的地位

監獄法(以下「法」という。)は、死刑確定者の処遇について、刑事被告人のそれに準ずるとの原則を定めている(法九条)。右規定は、単に刑事被告人に関する特則の死刑確定者への準用を定めただけでなく、在監者一般に適用される規定の解釈運用にあたっても原則として右両者を同等に扱うべき旨をも定めたものというべきである。

被告は、死刑確定者の拘禁の目的を、社会から厳格に隔離し心情の安定を図ることにあると主張しているが、死刑確定者の拘禁の法律上の目的は執行の日まで本人の身柄を確保することにあり、社会からの厳格な隔離や心情の安定それ自体は死刑確定者の拘禁の目的ではなく、死刑確定者の拘禁を自由刑確定者及び未決勾留者の拘禁と区別する理由とはならない。

すなわち、社会からの隔離は再犯の防止を目的とするものであると解されるところ、再犯を防止するにはその身柄を拘束して監視すれば足りるから、被告が主張するような「厳格な」隔離は死刑確定者の拘禁の目的ではない。また、心情の安定については、死刑確定者が死に直面し精神的葛藤に直面せざるをえないとしても、右は個人の内心の問題であって、精神疾患の治療として必要な場合及び施設の規律秩序を害する相当の蓋然性がある場合の他は、憲法一九条、二〇条等により国が介入することは許されないと解されるが、この点は未決勾留者等の拘禁の場合と異ならない。

(二) 死刑確定者の図書閲読権

図書閲読権は、基本的人権の中でも優越的地位を与えられている表現の自由と密接不可分に関わる権利であるから、その制限にあたっては、単に当該図書の閲読が死刑確定者の拘禁目的(身柄の確保)や施設の安全及び秩序を阻害する抽象的可能性が存するというだけでは足りず、当該図書を当該死刑確定者に閲読させた場合に、当該時点の具体的状況のもとで、本人の身柄確保や施設の安全及び秩序が阻害される相当の蓋然性が客観的に認められることが絶対的に必要である(最高裁判所昭和五八年六月二二日判決(民集三七巻五号七九三頁、以下「昭和五八年判決」という。)参照)。そして、(一)のとおり、死刑確定者の拘禁の目的は、刑事被告人の場合と同様、身柄を確保することにあり、社会からの厳格な隔離や心情の安定を目的とするものではないから、死刑確定者は、図書を閲読する権利についても刑事被告人と同等の法的地位を与えられているのであって、単に社会からの隔離や心情の安定を妨げるおそれがあるというだけで、死刑確定者の図書閲読を制限することは許されないのであり、昭和五八年判決及び最高裁判所平成三年七月九日判決(民集四五巻六号一〇四九頁、以下「平成三年判決」という。)の趣旨を正しく解し、かつその趣旨を敷衍するならば、次のような制限基準こそが憲法と国際人権規約の趣旨に沿うものであり、以下の基準を越える死刑確定者の図書閲読の制限は、法三一条に反し違法である。

(1) その図書の閲読が逃走その他の違法行為や規律違反行為に直接利用されようとしている形跡が認められる場合は、右行為が生じる確率がその反対の確率より低いときでも、必要かつ合理的な範囲でその閲読を制限することができる。

(2) その図書の閲読を許すと、間接的・精神的影響により逃走その他の違法行為が生じる可能性があると認められる場合は、右行為が生じる確率がその反対の確率を上回っていると認められるときに限り、必要かつ合理的な範囲でその閲読を制限することができる。

(3) その図書の閲読を許すと、間接的・精神的影響により規律違反行為が生じる可能性があると認められる場合は、右行為が生じる確率がその反対の確率を相当に上回っていると認められるときに限り、必要かつ合理的な範囲でその閲読を制限することができる。

(三) 原告の処遇歴等

(1) 連続企業爆破事件第一審判決文中で、原告の信条や反省態度等について判示されているが、右判示内容は全て真実というわけではないし、本件第一措置当時の原告にそのまま該当するものでもない。

原告は、監獄制度も含めて、我が国の政治や社会のあり方に批判があるとしても、それを法に触れるようなやり方で変えようとする考えは誤りであること、我が国のような民主主義国家における政治や社会の変革は、合法的で非暴力の行動によってこそ真にその目的を達成しうるものであることに気がつき、従来の思想や行動と訣別していた。

(2) 被告は、原告が「対監獄闘争」を行ってきた旨主張しているが、原告は、昭和五四年以降、規律違反となるような行動をしておらず、処遇上の問題は所長面接、情願及び訴訟等、法的な手段で解決を図っており、以後現在まで、昭和五七年五月のハンガーストライキを除き、対監獄闘争に関連する規律違反事件を起こしていない。右ハンガーストライキも、本件拘置所当局が昭和五七年四月に至って一〇食以上のハンガーストライキを規律違反として処分の対象とするようになり、原告がこのことを知ったのは刑事施設法案に反対する声明を総理大臣等に送付し五日間のハンガーストライキを始めた後であったため、なりゆき上中止できなかったものであって、例外的なものである。

また、昭和五四年ころから、原告は、「獄中者組合」及び「獄中の処遇改善を闘う共同訴訟人の会」が穏健な路線を取るように働きかけを始め、昭和五七年ころには集団的な規律違反とみなされるような「対監獄闘争」は殆ど全く行われなくなった。昭和六〇年に結成された「統一獄中者組合」は、原告の働きかけもあって、非暴力的・合法的改革路線を打ち出した穏健な組織となった。

原告は、昭和五四年、刑事公判廷で「武闘路線」の清算を宣言したのち、折に触れ自己の生き方、行動はもはや非暴力主義以外にありえないことを表明してきた。本件拘置所長は、かかる原告の思想と行動の変化を、信書の検閲等を通じて十分に認識していた。

(3) 原告の支援者は、再審・恩赦等の合法的手段によって原告の生命を救おうと努力しているのであって、「生きて身柄を奪い返す」等のスローガンを掲げてテロ行為をほのめかしたことはない。

(4) 原告は、本件拘置所在監中に自殺、自傷又は逃走を企図して取調べや処分を受けたことはない。また、原告は、審理の経過から上告棄却を予想していたから、死刑判決が確定しても全く動揺しなかった。

また、原告は、違法な手段で外部交通制限を潜脱するようなことは一切していない。

(四) 本件第一措置の違法性

原告は我が国における非合法的闘争の正当性を否定する思想と信条を有する者であり、原告の処遇歴及び思想的立場に照らせば、原告が本件各記事を閲読した場合に、原告が、身柄奪還の期待感を抱いたり、規律違反を犯す等身柄確保や施設の安全及び秩序を阻害する行動に出る蓋然性は皆無であり、少なくとも本件第一措置の当時、原告が右のような行動に出る蓋然性がその反対の蓋然性を上回ると認めるべき状況にはなかったというべきである。

したがって、原告に対し、本件各記事について閲読不許可とすべき正当な事由は存しなかったのであるから、本件第一措置は法三一条一項に反し違法である。

2  被告の主張

(一) 死刑確定者の法的地位

(1) 死刑確定者の拘禁

死刑確定者の拘禁は、社会から厳格に隔離し心情の安定を図る必要があるなど、自由刑確定者の拘禁とも未決勾留者の拘禁とも、その目的及び性格を異にするものである。

すなわち、自由刑確定者の拘禁は、それ自体が自由刑たる刑罰の執行であり、将来の社会復帰を前提にした教育的効果を期待し、かつ要求すべきものであるのに対し、死刑確定者の拘禁は、生命刑たる刑罰そのものではなく、また将来の社会復帰を前提にした教育的効果を何ら目的とはしていない。また、未決勾留者の拘禁は、いわゆる無罪の推定を受ける者について専ら逃走及び罪証湮滅の防止を目的とするのに対し、死刑確定者の拘禁は、死刑執行の前置手続として定められたものであって、再審請求の場合を除き罪証湮滅の防止を考慮する必要はない。

また、死刑確定者と他の被拘禁者との最大の相違点は、死刑確定者には、社会復帰はもちろん、生への希望さえも断ち切られている点であり、その内心は通常一般人では知りえないものがある。このため、死刑確定者は、絶望感にさいなまれて、自暴自棄になり、あるいは極度の精神的不安定状態を招来し、あるいは自己の生命・身体を賭して逃亡を試みるなどして、将来の執行を困難にするおそれがないとはいえないばかりか、拘禁施設の現場担当者の管理に支障・困難が生ずる危険性が他の被拘禁者に比すべくもなく高いものであることは、容易に推察されるところである。そのため、死刑確定者については、その管理の必要上、精神状態の安定について格段の配慮を払う必要がある。

(2) 死刑確定者の自由の制限

拘禁とは、そもそも一定の場所に身柄を拘束することであるが、限られた物的・人的設備をもって被拘禁者の身柄拘束を確保・維持するためには、施設管理上移動の自由以外の各種の自由に一定の制限を加える必要性を否定することができず、その制限が拘禁確保のために必要かつ合理的なものであると認められる限りは、拘禁そのものに必然的に伴う自由の制限として許されるべきである。そして、右(1)のとおり三種の拘禁は、それぞれ法的な目的及び性格を異にするものであるから、その相違点がそれぞれ拘禁に付随する具体的処遇の局面に反映することも必要かつ合理的な限度で是認されるべきであり、移動の自由以外の自由に対して、いかなる内容の制限をいかなる程度まで許容しうるかは、各拘禁の法的な目的及び性格を考慮して決定すべきである。

なお、法九条は、死刑確定者には特段の規定のない限り刑事被告人に関する規定を準用すると定めている。しかしながら、そもそも監獄法令の在監者に関する各規定は、在監者の種類ごとに相応かつ適正な処遇がなされるべきことを要求しているものであるから、その内容は各在監者の種類ごとに異なったものとなる。このことは、監獄法令の規定のうち、明示的に特定の在監者を対象としている規定に限るものではなく、在監者一般に関する規定及び他の種類の在監者に適用すべき規定の準用を受ける場合においても変わりはない。そして、前述のとおり未決勾留者の拘禁と死刑確定者の拘禁とはその法的な目的及び性格を異にするものである以上、法九条は、死刑確定者の処遇に関する別段の規定がないときに刑事被告人に関する規定を準用することを規定したにとどまり、その解釈・運用についてまで刑事被告人と同一に扱うことを要求するものではなく、死刑確定者の拘禁と刑事被告人の拘禁との法的な目的及び性格の差異に応じた修正を施した上で刑事被告人に関する規定を準用し、死刑確定者に対しその拘禁の目的及び性格に応じた適正な処遇がなされるべきであることを要求したものと解すべきである。

そうすると、監獄の長が死刑確定者の各種の自由を制限すべきか否かを決定するにあたっては、当該制限の必要性の程度、制限される自由の内容・性質、右制限の程度・態様、右制限により死刑確定者が被る具体的な不利益を慎重に比較衡量して、右制限の必要性・合理性を判断すべきである。そして、右制限の必要性の程度の判断にあたっては、刻々変化しうべき死刑確定者の動静と微妙な心理状態を迅速かつ適正に把握し認定することが不可欠であるから、当該死刑確定者の動静及び心理状態を常に総合的にかつ個別的に把握しうる状況にある当該拘禁施設の長に、相当程度の裁量権が与えられているものと解すべきである。

(二) 死刑確定者の図書閲読権の制限

(1) 監獄法施行規則(以下「規則」という。)八六条一項は、法三一条を受けて、「文書図画ノ閲読ハ拘禁ノ目的ニ反セズ且ツ監獄ノ紀律ニ害ナキモノニ限リ之ヲ許ス」と規定し、在監者の種類ごとの拘禁目的及び監獄の規律秩序維持に支障がない場合に限り閲読を許すこととし、その許否については監獄の長の裁量に委ねている。したがって、死刑確定者の図書閲読の許否に当っては、規律秩序の維持の観点並びに社会からの厳格な隔離や心情の安定を図る必要性という死刑確定者の拘禁目的及び性格を勘案した観点から検討すべきである。

(2) 昭和五八年判決は、未決拘禁者の自由に対する制限について、勾留の目的である逃亡又は罪証隠滅の防止のための制限と右勾留目的を適正に実現するために間接的に要求される規律又は秩序維持のための制限とを区別したうえで、規律又は秩序維持のための制限に関する基準について、放置することができない程度の障害が生ずる「相当の蓋然性」が認められる場合に制限を加えることができると判示したものである。そして、平成三年判決は、未決拘禁者に関し、勾留の目的による制限については、逃亡又は罪証隠滅の「おそれ」が生ずる場合に制限を加えることができると判示して、規律又は秩序維持のための制限に関する基準と異なる制限基準を用いることを明らかにした。

そして、右「おそれ」の程度について、勾留目的の達成のため自由を制限するための要件であるという点では勾留の要件(「逃亡又は罪証隠滅をすると疑うに足りる相当な理由」)と未決拘禁者の監獄内における自由の制限の要件は同一の基準によるべきであるから、「おそれ」の程度は右「相当な理由」の程度と同一であると解すべきであって、「相当の蓋然性」よりも低い蓋然性で足りるというべきである。したがって、未決拘禁者の自由を制限しないことにより、逃亡又は罪証隠滅に至ることが具体的根拠に基づいてある程度の蓋然性をもって認められる場合には、施設の長は当該自由を制限できるというべきである。

(3) してみると、死刑確定者についても、社会からの厳格な隔離及び心情の安定を図る必要性という拘禁目的による制限と監獄内の規律又は秩序維持上の必要性による制限とは制限基準を異にすると解するのが妥当である。

そして、拘禁目的による制限については、具体的根拠に基づいてある程度の障害が生ずる蓋然性が認められる場合にその自由を制限することができるというべきである。

また、規律又は秩序の維持上の必要性による制限について、昭和五八年判決が「相当の蓋然性」という基準を採ったのは、未決拘禁者が拘禁関係に伴う制約の範囲外では原則として一般市民としての自由を保障される立場にあることを前提としているのである。死刑の判決が確定し、極めて反社会的な行動傾向を有する危険な犯罪者として拘禁されている死刑確定者については、未決拘禁者の場合と同列に論じるべきではなく、「相当の蓋然性」よりも低い蓋然性をもってその自由の制限が認められると解すべきである。

(三) 原告の素行及び支援者の動向等

(1) 原告は、いわゆる連続企業爆破事件の刑事第一審判決文の中で「人命に対する畏敬の念もなければ、八名もの人命を奪い、少なくとも百数十名に重軽傷を与えたことに対する人間的な反省があるとは認められない」「自己らの目的を至高のものとし、その目的のためには、他人の生命も手段にすぎないとする人命蔑視と思い上りが如実に窺える」「その社会的思考は深く固着化していて抜き難い」等と認定されているものであり、第一審の公判審理過程においては再三にわたり出廷を拒否し、裁判長の訴訟指揮に従わずに退廷させられ、「再三の出廷拒否や、訴訟指揮にも従わずに多数回に及ぶ退廷・監置の処分を受けるなどの法廷闘争を続け、改悛の情のないことを裏付けている」と指摘されており、原告が激しい法廷闘争を繰り返してきたことを明らかにしている。

(2) また、原告は、日帝支配打倒をスローガンに監獄解体を標榜する「獄中者組合」と監獄解体及び獄中者開放を標榜する「獄中の改善を闘う共同訴訟人の会」の両組織が統合して獄中者及び出獄者の権利の確立と拡大を活動目的に昭和六〇年一一月一六日結成された「統一獄中者組合」の一員であり、その運営委員となって規約作りを行うなど積極的にその運営に参画し、また、死刑制度廃止と監獄法改正反対闘争に積極的に取り組んでいる「麦の会(日本死刑囚会議=麦の会)」の会員となり、これらの組織に加入している在監者及び外部の支援者らと呼応し、いわゆる対監獄闘争と称して、施設の処遇の改善を求めると称して各種の不服申立てを累行し、また、対監獄闘争の一環として、別表2のとおり、職員に暴行を働いたり、大声を発したり、ハンストを行うなどして、再三にわたり懲罰を科されてきたものである。

(3) 原告の支援者らも、原告の刑事裁判の最高裁判所の判決(昭和六二年三月二四日言渡し)の確定の見通しがたってからは、「死刑攻撃阻止」や「判決粉砕」等のスローガンを掲げ、ビラや信書によって死刑執行阻止に向けて共に闘う旨の意思を原告に伝えたり、本件拘置所に対する抗議行動等をたびたび行っており、また、原告の死刑が確定してからは、「死刑制度撤廃」、「死刑執行阻止」、「生きて身柄を奪い返す」といったことをスローガンに、マスコミへの投書、国会議員や関係機関への陳情なども加え、なかにはテロ行為をほのめかす者もいた。

(4) 原告は、死刑判決が確定する直前には、死刑確定者となることを意識してか、その動静に落ち着きがみられず心情が不安定となっていたことがうかがわれ、死刑確定者として処遇する旨の言渡しを受けてからしばらくの間は特に不安定で、本件拘置所では、突発的な行動等に備え、特別の警備体制を敷くことを余儀なくされた。

また、原告は死刑確定後、その外部交通の相手方が制限されたことに対し、様々な方策によって外部との連絡手段を確保しようと腐心し、内容を限定して外部交通を許可された相手方である複数の弁護士への発信において、当該弁護士が受任している用務とは何ら関係のない事項を記載して発信しようとしたり、実父との面会時においても、実父あてに書く信書は実父にあてたものであると同時に他の者にあてたものであるなどと、実父を窓口として他の支援者との交通を画策する趣旨の発言をしていた。

加えて、日本赤軍等の不法集団が原告を含むいわゆる連続企業爆破事件の関係者の身柄奪還を狙っているとの情報もあり、原告の身柄確保については予断を許さない状況にあることから、原告の死刑確定以来一貫して、原告が外部支援者等と情報のやりとりをすることについては細心の注意を払ってきているものである。

(四) 本件第一措置の適法性

本件抹消記事のうち、アメリカ合衆国の収容施設における囚人の暴動に関する記事(別表1のNo.1)は、具体的な方法等を記述したものであるうえ、当該暴動が収拾のつかないまま拡大している時点での報道であったことから、右記述を原告にそのまま閲読させた場合は、右暴動記事に触発されて、暴動等を契機とする逃走への期待感を抱かせる等極度の精神的不安定状態を招来し、その心情を害して原告の拘禁目的を達成するうえで障害を生ずる蓋然性が認められただけでなく、記事の内容と類似の行為あるいは逃走を企てる等して拘禁目的に決定的障害を与え、かつ右障害による施設の規律及び秩序の維持上放置しがたい程度の障害を生ずる相当の蓋然性も認められた。

また、左翼過激派運動団体の幹部が逮捕された経緯に関する記述及び右団体が原告ら連続企業爆破事件関係者の身柄の奪還を画策している等の記事(別表1その余の記事)についても、これをそのまま原告に閲読させた場合には、右暴動に関する記事を閲読させた場合と同様、原告の拘禁目的を害する蓋然性が認められるとともに、施設の規律及び秩序の維持上放置しがたい程度の障害を生ずる相当の蓋然性も認められた。

右によれば、本件第一措置を必要であるとの本件拘置所長の判断は、死刑確定者の特質、その拘禁の目的及び性格等を考慮してなされたものとして合理性が認められ、したがって、右判断に基づく本件第一措置は、監獄の長に認められている裁量権の行使の範囲内で行われたものであって、適法であるというべきである。

三  争点に対する判断

1  前記一の事実に、証拠(甲一、四、六、一八、乙二、証人水上要、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、前記一1の連続企業爆破事件の刑事第一審判決である東京地方裁判所昭和五四年一一月一二日判決において「人命に対する畏敬の念もなければ、八名もの人命を奪い、少なくとも百数十人に重軽傷を与えたことに対する人間的な反省があるとは認められない」「自己らの目的を至高のものとし、その目的のためには、他人の生命も手段にすぎないとする人命蔑視と思い上がりが如実に窺える」「その反社会的思考は深く固着化していて抜き難い」等と認定されているものであり、第一審の公判審理過程での対応についても、「再三出廷を拒否し、訴訟指揮に従わず何回も退廷させられ、監置の制裁を受けるなどの法廷闘争を続け、改悛の情のないことを裏書している」と指摘されている。

(二) 原告は、矯正施設に対する組織的・大衆的闘争を展開しこれを解体することを究極の目的として組織された「獄中者組合」や「獄中の処遇改善を闘う共同訴訟人の会」に関与していたほか、別表2のとおり、他の在監者と呼応して大声を発したり、職員に暴行を働いたり、ハンガーストライキを行うなどして、再三懲罰を科されていた。

また、原告は、死刑制度廃止と監獄法改正反対闘争に積極的に取り組んでいる「麦の会(=日本死刑囚会議)」の会員となり、また獄中者及び出獄者の権利の確立と拡大等を活動目的として昭和六〇年一一月中に結成された「統一獄中者組合」の構成員となって規約作りを行うなど積極的にその運営に参画し、施設の処遇の改善を求めるとして各種の不服申立てを多数行ってきた。

なお、右のとおり原告もその設立に参加した統一獄中者組合の設立宣言第二章では、「統一獄中者組合の発足は、何よりも、日々監獄当局の弾圧にさらされ、分断と孤立化を強いられている獄中者の普遍的な願いを反映したものである。第三世界民衆の開放闘争の発展と帝国主義諸国間の矛盾の激化という国際情勢の流動化の下で、日本帝国主義は新たな侵略戦争に人民を動員するため、少数者抹殺の排外的ファシズムをあおり、労働や教育現場の管理統制を強めている。このようなファシズムの波は、監獄・寄せ場・精神病院などの国家の底辺にあって最も抑圧された場所にいち早く、集中的に現れる…このようなファシズムの波に抵抗し、獄中者が自らの権利と利益を防衛していく闘いは、獄外の人民の階級闘争と不可分一体のものであり、さらには、第三世界民衆の反帝国主義の闘いにも連なるものである。」として、獄中者と獄外者との運動の一体性が強調されている。

(三) 獄外の原告の支援者らも、原告の刑事裁判の判決(昭和六二年三月二四日上告棄却)の確定の見通しがたってからは、「死刑攻撃阻止」や「判決粉砕」等のスローガンを掲げ、ビラや信書によって死刑執行阻止に向けて共に闘う旨の意思を原告に伝えたり、本件拘置所に対する抗議行動等をたびたび行っていた。また、原告の死刑が確定(同年四月二一日)してからは、「死刑制度撤廃」、「死刑執行阻止」といったことをスローガンにマスコミへの投書、国会議員や関係機関への陳情を行ったり、別件事件の法廷で「塀を破ってでも身柄を奪い返す」などの非合法的な手段による身柄の奪還を示唆する発言をしたり、パンフレットに同様の趣旨のスローガンを記載するなどしていた。

また、日本赤軍等の組織が、昭和五〇年のクアラルンプール事件及び昭和五二年のダッカ事件を起こし、東アジア反日武装戦線所属の刑事被告人ら一名を超法規的措置により国外脱出させたことがあったが、昭和六二年一一月ころも日本赤軍等が、原告を含むいわゆる連続企業爆破事件の関係者の身柄奪還を狙っているとの情報もあった。

(四) 死刑判決確定の前後、原告の言動に落ち着きが見られず、本件拘置所は、原告の心情が不安定になっているものと判断して、突発的な行動等に備え特別の警備体制を敷いていた。

(五) 昭和六二年一一月二七日から三〇日にかけて、当時原告が講読していた朝日新聞に、アメリカ合衆国の収容施設における囚人の暴動について、当該暴動が収拾のつかないまま拡大している時点で、暴動の具体的な状況を記述した記事(別表1のNo.1の記事)や、ダッカ事件に関与し、日本赤軍幹部とされる乙川一郎が逮捕されたこと、その逮捕に関する一連の経緯、日本赤軍等が原告らいわゆる連続企業爆破事件関係者の身柄の奪還を画策しているとの情報があるとの記事(別表1のその余の記事、以下「乙川関連記事」という。)が掲載された。

(六) そこで、本件拘置所長は、右暴動記事(別表1のNo.1)について、右記事が具体的な方法等を記述したものである上、当該暴動が収拾のつかないまま拡大している時点での報道であったことから、右記事を原告にそのまま閲読させた場合は、右暴動記事に触発されて、暴動等を契機とする逃走への期待感を抱かせる等極度の精神的不安定状態を招来し、その心情を害して原告の拘禁目的を達成する上で障害を生ずる蓋然性が認められるだけでなく、記事の内容と類似の行為あるいは逃走を企てる等して拘禁目的に障害を与え、かつ右障害による施設の規律及び秩序の維持上放置しがたい程度の障害を生ずる相当の蓋然性も認められるとして、右暴動記事部分全部を抹消し、乙川関連記事(別表1のNo.1以外のもの)についても、これをそのまま原告に閲読させた場合には、右暴動に関する記事を閲読させた場合と同様、原告の拘禁目的を害する蓋然性が認められるとともに、施設の規律及び秩序の維持上放置しがたい程度の障害を生ずる相当の蓋然性も認められるとして、同様に全部抹消した。

2  そこで、本件第一措置について、法三一条に反する違法があるかを判断する。

(一) 死刑確定者の拘禁の直接の目的は、刑の執行に至るまでの間の逃亡を防止しつつ、生命刑としての死刑の適切な執行を確保することにあるのであるが、死刑確定者は他の被拘禁者と異なり、社会復帰はもちろん、生への希望さえ断ち切られているのであり、絶望感にさいなまれて自暴自棄になる、極度に精神的に不安定な状態になり、自己の生命身体を賭けて逃亡を試みたり自ら命を断とうとするなどして、将来の刑の執行を困難にする蓋然性が低いとはいえず、そのような場合には前記の死刑確定者に対する拘禁の目的を達成することも困難となるのであるから、死刑確定者の拘禁目的を達成するためには、死刑確定者の監獄内での処遇において本人の心情の安定の確保に対する特段の配慮が必要とならざるをえない。

したがって、他の在監者と同様に、死刑確定者の図書閲読についても、思想及び良心の自由を定めた憲法一九条及び表現の自由を保障した憲法二一条の規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれるものとして憲法上保障されているものであるから、その自由が尊重されるべきであるが、他方、死刑確定者の拘禁が、右のとおり、逃亡を防止して適切な刑の執行を確保することを目的とし、そのためには本人の心情の安定確保に特段の配慮を必要とすることから、本人の心情の安定を害し拘禁の目的を害する蓋然性がある場合には、必要かつ合理的な範囲で制限することが認められるべきであり、また、監獄は多数の被拘禁者を外部から隔離して収容する施設であり、監獄内でこれらの者を集団として管理するにあたっては、内部における規律及び秩序を維持する必要があることも否定することはできないから、本人の性向、行状、監獄内の管理、保安の状況、当該図書の内容その他の具体的事情のもとにおいて、施設の規律及び秩序の維持上放置することができない程度の障害が生ずる相当の蓋然性がある場合にも、右障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲で一定の制限を受けることもやむを得ないというべきであり、法三一条及び規則八六条も右のような趣旨を示したものであると解すべきである。

そして、具体的場合における前記法令の適用にあたり、当該新聞紙の閲読を許すことによって、当該死刑確定者の心情の安定を害する蓋然性があるか否か、監獄内の規律及び秩序の維持に放置することの出来ない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があるか否か、及びこれを防止するためにどのような内容、程度の制限措置が必要と認められるかについては、当該死刑確定者の動静、心理状態等を常に個別的かつ総合的に把握しうる状況にあり、かつ監獄全体を継続的に直接管理して、その実情に通暁し、直接その衡にあたる監獄の長の裁量的判断を尊重すべきであるから、右判断に合理的な根拠があり、防止のために当該制限措置が必要であるとした判断に合理性がある限り、その措置は適法として是認すべきである。

(二) 本件では、原告の活動歴、本件拘置所在監中の言動、原告と外部支援者との関係、本件各記事の内容、その公表時期等右1で認定した事情を考慮すれば、原告に本件各記事をそのまま閲読させた場合に、逃走を企て、あるいは逃走や身柄奪還への期待感を抱かせる等原告の心情を不安定ならしめ、原告の拘禁目的を害する蓋然性があるとの本件拘置所長の判断には合理的な根拠があったものと認められ、また右事由の発生を防止する方法として本件各記事を抹消する措置を執ったことが合理性を欠くものとも認められない。

なお、原告は、本件第一措置当時は、我が国における非合法的闘争の正当性を否定する思想を抱いていたものであるから、本件各記事を読んで身柄奪還の期待を抱いたりして心情の安定を害することはなかった旨主張するところ、原告は各種投稿記事等において、例えば「ぼくたちはかつて、帝国主義本国人であるおのれの生き方を自己否定するために、武装闘争という"他を殺して(も)自分を生かす"闘いを自分に課そうとしてきた。しかし、真の自己否定に立つ闘いとは、自分を殺して(も)他を生かす闘いでなければならなかったのではないか。ぼくは、「三菱」の犠牲を無駄にしないためにも、そのような第三の道によって、生きている限り日本帝国主義と闘い抜かなければならないと思っている。」等と右主張に副うと思われる文章を記載していることが認められる(甲八、九)。しかしながら、本件第一措置当時、本件拘置所長は、原告の右言動にもかかわらず、原告の思想等の右のような変化についてはなお強い疑問を抱いていたものであり、前記認定の1(一)ないし(四)の事実に照らすと、本件第一措置当時、本件拘置所長が右のような認識、判断をしたことには相応の合理的根拠があったものということができるから、前記認定を左右するには足らない。

よって、本件第一措置は違法とは認められない。

第四  本件第二措置について

一  前提となる事実(以下の事実は、括弧内にその認定証拠を掲げた事実を除いて、当事者間に争いがない。)

1  本件拘置所では、在監者が閲読する新聞は、閲読後廃棄することを原則とし、訴訟その他の理由で保存が必要な場合はそのつど在監者が出願して宅下げ等の許可を受ける取扱いとしている。

2  原告は、本件拘置所長に対して、昭和六二年一二月二二日、本件第一措置に係る朝日新聞の各ページ合計二一枚(以下「本件新聞紙」という。)について、すでに係属中の民事訴訟(東京地方裁判所昭和六二年(ワ)第六八三三号、以下「第六八三三号事件」という。)の追加主張の立証に必要があるとして、第六八三三号事件における原告の訴訟代理人である舟木友比古弁護士宛に宅下げしたい旨を出願した(甲一)。

本件拘置所長は、同月二三日、右宅下げを不許可とし、原告に対し、本件新聞紙を廃棄する旨告知した。

3  原告は、同月二三日、宅下げ先を第六八三三号事件が係属している東京地方裁判所民事第三七部宛に変更して、直接郵送宅下げすることを出願した。

本件拘置所長は、同月二四日、右宅下げを不許可とし、本件新聞紙はあくまで廃棄の取扱いをする旨告知した(2及び3における各宅下げ不許可・廃棄処分を、以下「本件第二措置」という。)。

4  そこで、原告及び舟木弁護士は、東京地方裁判所に本件新聞紙の証拠保全を申し立て、昭和六三年七月ころ、廃棄する旨告知された後も事実上保管されていた本件新聞紙について証拠保全が実施された。

二  争点

1  原告の主張

(一) 本件拘置所では、在監者が閲読する新聞につき閲読後廃棄する取扱いをしているが、右取扱いを一律に強制することは在監者の図書閲読権(法三一条一項)、所有物の保存権(法五一条一項)及び処分権(法五二条)の違法な制限となるのであって、在監者が訴訟上その他の正当な目的で新聞の保存(領置、宅下げ又は房内所持)を必要とする場合に、それを幅広く認める扱いが同時に保障されている場合に限り、閲読後廃棄の取扱いが適法となる。

(二)(1) 本件拘置所では、昭和五九年七月までは、在監者が新聞の保存を必要とする場合には本人がその部分を切り抜いて「諸願箋」を付して許可を出願する取扱いであった(切り抜きを数日分一括して出願することも認められていた。)。次に、同年七月三〇日以降、右取扱いが変更され、切り抜くべき記事に赤印を付けた新聞を提出してそれを当局に切り抜いてもらう扱いとなった(数日分一括しての出願は従来通り認められていた。)。さらに、昭和六二年八月七日以降は、新聞・雑誌の全部又は一部の保存については、「新聞・雑誌の領置又は宅下げ願いについて」と題する申請用紙に出願の詳細な理由を記入したものを提出して行うことになったが、新聞保存の出願に関し、数日分一括して同じ申請用紙で出願することを禁止する旨の告知、指示は行われなかった。そこで、原告は、本件新聞紙の抹消が連日に及び、かつ保存を必要とする理由が同一であったことから、従来どおりある程度枚数がまとまった時点で一括して保存の出願をすることとして、前記一の出願を行ったものである。

(2) 原告が、昭和五六年一〇月八日に本件拘置所による新聞抹消(六〇枚)に関し提起した損害賠償請求事件で、新聞切り抜きを書証として提出した当時、本件拘置所長は原告が右新聞切り抜きを作成し保存することを許可してきた。その後も、本件第二措置までの六年間、東京拘置所長は、原告が新たに抹消された新聞記事の切り抜きを訴訟資料として保存することをすべて許可してきた。

(3) 抹消された新聞の現物は、当該処分の存在を立証する直接の証拠として極めて重要なものである。けだし、当該処分について訴訟で争う場合に、本件第二措置がなされた時点では被告が右処分の事実を認める保証はなく、仮に認めたとしても、右抹消により原告が受けた精神的苦痛の程度は、裁判官が現物を検証することで、より確かに立証し得るからである。また、被告は本件拘置所長が本件新聞紙を後日の紛争に備え事実上保管した旨主張するが、本件拘置所長に右保管の必要があったとすれば、原告においても同様の必要性があったことは明らかである。

(三) 右によれば、原告が本件新聞紙の抹消について提訴するため、その現物の宅下げを出願したことには正当な理由があったというべきである。かえって、本件新聞紙について宅下げを許可した場合に施設の正常な管理運営が阻害される危険性は存在しておらず、仮に施設管理上何らかの影響が生じるとしても、その影響の程度は本件新聞紙の宅下げにより得られる原告の法的利益に優越するほど大きいものとはいえないのである。

したがって、原告が本件新聞紙について所定の手続に従って宅下げの出願をしたにもかかわらず、本件拘置所長が右出願を認めず、強制的廃棄処分に付したことは、法五二条による所長の裁量権を逸脱又は濫用したものであり、ひいては原告の裁判請求権をも侵害したものであって違法である。また、本件第二措置による原告の精神的苦痛そのものは、前記一4の証拠保全の実施により償われたわけではない。

2  被告の主張

(一) 在監者の講読する新聞紙について、法五一条一項、規則一四〇条、同一四九条、同八六条二項及び取扱規程二一条の各規定の趣旨を受けて、おびただしい量に及ぶ新聞紙の領置事務に伴う監獄の管理運営上の支障が生ずることを防止するため、閲読後の新聞紙は廃棄することが原則とされているが、例外的に在監者の出願に相当の必要性が認められる場合に限り規則一四〇条の領置手続をし、法五二条(領置物の宅下げ)所定の手続を経て宅下げすることを認めている。

もっとも、領置を原則としていない新聞紙等の宅下げがむやみに増加することになれば、監獄の領置事務に支障を生じ、その結果監獄の管理運営上支障を生ずることになるから、右例外的扱いにおける相当の必要性の判断は、集団を管理するがゆえの公平かつ合理的な範囲にとどめられるべきであって、監獄内の実情に通曉する監獄の長による個々の場合の具体的状況のもとにおける裁量的判断に委ねられるというべきである。

(二) 本件拘置所では、原告の出願が、右(一)の宅下げを例外的に認めることのできる「相当の必要性があると認められる場合」に当たるか否かを検討したが、その結果は次のとおりである。

(1) 第六八三三号事件における原告代理人舟木弁護士宛の宅下げの出願について

本件新聞紙の抹消の措置は、本件拘置所長が、法の規定に基づきその権限と責任において行った措置であるから、訴訟においてその事実を否認することはおよそあり得ず、原告が本件新聞紙を追加主張の証拠として提出する必要性は認められないことから、本人の権利保護のために必要かつやむを得ないと認められる場合には当たらないと判断した。

よって、本件拘置所では、右宅下げを許さず、(一)に従って、原則どおり廃棄することとし、昭和六二年一二月二三日、その旨を原告に告知した。

なお、原告が本件新聞紙を所持していた行為は、本件拘置所において、拘禁目的を達成し所内の規律及び秩序維持を図るため、在監者が所内において遵守すべき事項を定めた「所内生活の心得」第二の一四の6に定める「閲読後の雑誌、新聞及びパンフレット類は、特別に許可を得た場合のほかは領置及び宅下げを認めないので、廃棄の手続をとること。」に反し、また法五四条所定の「在監者ノ私ニ所持スル物」であると認められ、「所内生活の心得」第五の二の1の一七の「物品を不正に作り又は所持していたとき」に該当するものであったため、これに伴う取り調べのため及び法五九条に基づく懲罰処分に付することも予定して、本件新聞紙を引き上げた上で保管する必要があり、これを事実上保管することとした。

(2) 東京地方裁判所民事第三七部宛の宅下げ出願について

同日、原告は、本件新聞紙について、宅下げ先を東京地方裁判所民事第三七部あてに変更し、別件訴訟の証拠申請に必要があるとして宅下げを出願したが、その時点において本件新聞紙は既に原告の所有を離れ廃棄の措置が執られたものであるから、原告の領置物ではなく、これを宅下げできないことは自明であり、本件拘置所は本件新聞紙を東京地方裁判所に宅下げすることはなかった。

なお、仮に廃棄の措置が執られていなかったとしても、前記(1)と同様の理由により、東京地方裁判所への本件新聞紙宅下げの必要性は認められないものであったから、結果において変わるところはなかった。

(三) 以上のとおり、本件第二措置は、死刑確定者の拘禁の目的及び性格に照らして、特に原則廃棄の取扱を変更してまで宅下げを認める必要性はないものとして、本件拘置所長に認められた裁量の範囲内で行われた適法な措置であることは明らかである。また、前記一4のとおり、本件拘置所で事実上保管していた本件新聞紙の検証が実施されており、原告の所期の目的は達せられているので、原告に何ら損害は生じていない。

三  争点に対する判断

1  前記一の事実に、証拠(甲一〇、一八、乙一、二、証人水上要、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 本件拘置所においては、刑務所、少年刑務所及び拘置所会計事務章程(昭和二四年一一月一日経甲一〇三八号法務大臣訓令、以下「事務章程」という。)に基づき、在監者の所持品を領置する場合、その品目及び数量を個人別の領置品基帳に登載し、本件拘置所長の証印を押捺した上(規則一四〇条)、倉庫又はこれに代わる場所に保管するものとされ、その後の出納保管にも周到な注意が要求されることから、領置物品の出納保管は会計事務管理者又は刑務支所長及び拘置支所長の命令により、領置物品取扱主任官が取り扱うこととし、さらに領置物品取扱主任官が領置物品を受けたときは、携有品及び収容者宛の差入品を除き、領収の証書を交付することにしていたところ、本件第二措置当時においても、領置物品の受け払いは一日約一五〇〇件程度に及んでいた。

(二) 日刊の講読新聞について、取扱規程二〇条は、通常紙の閲読期間は、次の通常紙を配付し、又は備え付ける時までとする旨、同二一条で準用する一四条は、閲読後の新聞紙は廃棄することを原則とし、例外的に在監者の出願について相当と認める場合に限って領置することを認める旨、それぞれ規定している。

本件拘置所では、在監者の講読する新聞紙について、おびただしい量に及ぶ新聞紙の領置事務に伴う監獄の管理運営上の支障が生ずることを防止するため、規則一四九条(「新聞紙、雑誌、飲食物及ビ日常必需品ニ付テハ領置ノ手続ヲ為サザルコトヲ得」)に基づき領置手続を執らず、また取扱規定二一条が準用する同一四条に基づき閲読後の新聞紙は廃棄することを原則とし、例外的に在監者の出願に相当の必要性が認められる場合に限り、規則一四〇条の領置手続を経て、宅下げすることを認めていた。なお、在監者が新聞紙の宅下げを求める場合には、その扱いが例外的なものであることから、当該在監者に所定の願箋にその理由を記載して出願させ、理由が相当であると判断したときには、当該新聞紙に規律の維持上支障のある書き込みがないか検査し、支障がないことを確認の上、その新聞紙を領置物品取扱主任官である会計課領置係に転送し、同係において、当該在監者の領置品基帳にその新聞紙の品名を記載し、領置品としての品目に掲げた上で、当該新聞紙を同基帳の品目から落とす事務処理をした上で、法五二条に基づく宅下げを認めている。

(三) 原告の舟木友比古弁護士宛の本件新聞紙の宅下げ申請は、原告が当時遂行していた第六八三三号事件において本件新聞紙中の記事の抹消の事実について主張の追加を行い、その立証方法として保有しておく意図に基づくものであったが、これに対し、本件拘置所長は、本件新聞紙の記事の抹消の措置は、本件拘置所長が法の規定に基づきその権限と責任において行った措置であるから、訴訟においてその事実を否認することはおよそあり得ないので、原告が本件新聞紙を追加主張の証拠として提出する必要性は認められないこと、新聞紙は雑誌等と異なり後日紙面を入手することが容易であること等を理由に、宅下げを特に許可する必要はないと判断し、右宅下げを許さず原則どおり廃棄することを原告に告知し、本件新聞紙を引き上げた上で事実上保管した。

また、宅下げ先を東京地方裁判所民事第三七部宛とする出願について、本件拘置所長は、本件新聞紙はその時点において既に原告の所有を離れ廃棄の措置の執行段階に組込まれたものであるから、原告が理由を変えて出願しても、これを宅下げできないことは自明であるとして、東京地方裁判所宛の宅下げも認めなかった。

2  そこで、以上の各事実に基づいて、本件第二措置の違法性について判断する。

(一) 法は、処遇の平等、保安、規律、衛生等行刑上の要請に基づき、在監者の携有する物は全て領置され(法五一条)、釈放の際に交付する(法五五条)ことを原則とし、領置物の使用については、「其父、母、配偶者又ハ子ノ扶助其他正当ノ用途ニ充テンコトヲ請フトキハ情状ニ因リ之ヲ許スコトヲ得」と規定(法五二条)していることからすると、法は、領置物の宅下げの許否を監獄の長の裁量に委ねていると解される。

したがって、領置物の宅下げの許否については、使用の目的、監獄の状況等を考慮した監獄の長の判断が合理性を欠き裁量権の範囲を逸脱している場合でなければ違法とされないというべきである。

(二) 本件第二措置は閲読後の日刊新聞紙の宅下げに関するものであるが、そもそも多数の在監者を収容する監獄において日刊新聞紙を講読させた場合、閲読後の新聞紙の量が膨大なものになることは明らかであるところ、前記1(一)のとおり本件拘置所においてはすでに通常の領置品の出納事務により相当の負担が生じていたのであって、在監者の講読する日刊新聞紙全ての領置や宅下げを認めた場合、領置事務処理に著しい支障が生ずることは明らかであり、また、日刊新聞紙は一回閲読すれば、講読の一応の目的は達成されるのであるから、本件拘置所における、閲読後の新聞紙一般についての前記1(二)の取扱い基準自体には合理的な根拠があるものと認められる。

(三) そこで、原告の本件各新聞紙の宅下げ申請を許可しなかった点について判断する。

原告の本件新聞紙の宅下げ申請は、第六八三三号事件の追加主張の立証に必要があるとの理由で、その訴訟代理人ないし受訴裁判所宛に宅下げの申請をしたものであって、そのような理由でなされた宅下げ申請に対する許否の判断については慎重に対処すべきである。

しかしながら、宅下げを認める場合には前記1(二)のとおりの一連の事務処理をする必要があること、監獄の長が在監者の講読新聞を抹消した場合に、抹消の事実自体を争うことは一般的に想定しがたく、本件新聞紙が第六八三三号事件の証拠としてどの程度の重要性を有するかについては必ずしも明らかでないこと、日刊新聞紙は事後的に取得することが比較的容易であることなどの事情に照らせば、本件新聞紙についても本件拘置所長が前記のとおり宅下げを許可しなかったことには一応の合理性が認められるから、本件拘置所長に認められた裁量権の範囲を逸脱した違法があるとまではいえない(もっとも、抹消された記事の特定や記事が抹消された事実の証明のためには、右抹消後の新聞紙の宅下げを受けることが極めて便宜であることは明白であり、本件拘置所長において原告の不服申立てを阻害する目的で宅下げを不許可とすることは許されないというべきであるが、本件拘置所長において本件新聞紙を事実上保管し本件新聞紙の証拠保全に応じたことは先のとおりであり、本件において本件拘置所長に原告の不服申立てを阻害する意図があったことを認めるに足りる証拠はない。)。

また、本件拘置所長が、本件新聞紙につき廃棄の手続を執った点(もっとも、右は手続上の措置であって、物理的には廃棄されていない。)については、前記第三の一の2のとおり原告は本件拘置所に収監された当初の昭和五〇年七月二二日に雑誌等に関する願箋「交付願」を提出して閲読後の廃棄に包括的に同意しており、前記第三の一の1のとおり同年一一月一一日に本件拘置所から丸の内警察署へ移監されたことがあったものの、翌一二日には再び本件拘置所へ移監されているなどの本件事情のもとでは、右包括的同意の効力が継続していたものとみるのが相当であるし、前記のとおり本件拘置所長が宅下げを認めなかったことが違法とはいえないのであるから、その後取扱規程によりなされた廃棄の手続に違法があるとはいえない。

第五  本件第三措置について

一  前提となる事実(以下の事実は、括弧内にその認定証拠を掲げた事実を除いて、当事者間に争いがない。)

原告は、本件拘置所長が書籍「写GIRL84」掲載の女性ヌード写真を抹消して交付した処分を不服として、平成元年一〇月二一日東京地方裁判所に損害賠償請求事件(平成元年(ワ)第一四〇一九号)を提訴した。原告は、右提訴の準備のため、妻に依頼して(甲一)、東京地方裁判所昭和六二年(ワ)第一三四三五号損害賠償請求事件(原告丙山二郎、被告国)の第一審判決書の写し(以下「本件判決書写し」という。)の差し入れを受けた(右事件は、本件拘置所長が原告丙山の閲読する雑誌のヌード写真を抹消した行為につき争われたものである。)。これに対し、本件拘置所長は、平成元年九月七日、右判決書写し第一丁記載の同事件の被告指定代理人の氏名を抹消して原告に交付した(以下「本件第三措置」という。)。

なお、本件判決書写しにおいて氏名を抹消された者は、本件拘置所職員であった(乙二)。

二  争点

1  原告の主張

原告が、本件拘置所の他の被収容者が提起した損害賠償請求事件の被告指定代理人の氏名を知った場合に、原告の身柄の確保又は施設の安全及び秩序が阻害される蓋然性はない。また、原告は、右事件における問題と同様の問題について訴訟提起を準備し、現に提訴しており、右事件の被告指定代理人の顔ぶれを知ることは訴訟方針を考えるうえで有益であるから、原告は、本件判決書写しを無削除で閲読することについて、法律上保護されるべき利益を有していた。

したがって、本件拘置所長が本件判決書写しの一部を閲読不許可としてこれを抹消したことには、法律上正当な理由があると認められないのであって、本件第三措置は法三一条一項に違反し違法である。

仮に、被告の主張のとおり、本件拘置所職員が原告らの支援者の抗議行動の対象となる可能性があるとしても、公務員はその職務に関して言論による批判を受任すべき義務があり、その批判が事実に反する不当なものである場合は、司法手続によって対処すべきであり、右可能性は本件第三措置を正当とする事由とはならない。

2  被告の主張

(一) 本件拘置所においては、過去に在監者が面会時に本件拘置所職員の氏名を原告らを支援していた外部支援組織に伝えたため、右外部支援組織が、本件拘置所周辺において、本件拘置所に対する抗議行動を行った際、右職員の氏名がアジ演説の中で取り上げられたり、本件拘置所隣接の路上において支援者が配布したビラや在監者に差し入れられたパンフレットに記載されるなどして、右職員が在監者に対し、あたかも不当な職務を行っているかのごとく、公衆の面前において右職員が個人攻撃されたため、職員及び本件拘置所敷地内に居住するその家族が精神的苦痛を強いられたことがあった。

そこで、今後右同種事件の発生を未然に防止するために、本件拘置所の職員の氏名を在監者に知らせないこととし、その方法として、在監者宛に送付された信書やパンフレット類に記載されている職員の氏名を、在監者の同意を得て抹消したうえで交付することとしたものである。

(二) 前記抗議行動を行ったのが原告の支援者であったことを考慮すれば、本件第三措置が取られなかった場合には、本件措置に係る当該抹消の対象となった職員が原告らの支援者の抗議行動の標的となる蓋然性が相当程度認められた。

仮に、外部の者が当該抹消対象となる職員の氏名を判決書の記載等を見て承知していたとしても、そのことは単に本件拘置所にその氏名の職員が在職していることを知るに止まるものであるところ、原告のような施設に対して闘争的な在監者が面会時に当該職員のことを伝えることにより、当該職員がどのような仕事を担当しているか等の具体的な人物像を知ることが、当該職員に対する抗議行動の契機となりうる。

しかも、本件第三措置によっては、原告は事実上何ら損害を被ることはない。

したがって、本件第三措置は前記のような事態の発生を未然に防ぐためにやむを得ず執られた措置であり、適法なものである。

三  争点に対する判断

1  前記一の事実に、証拠(甲一、一八、乙二、証人水上要)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 本件拘置所においては、本件第三措置以前に在監者が面会時に本件拘置所職員の氏名を原告らを支援していた外部支援組織に伝えたため、右外部支援組織が、本件拘置所周辺において本件拘置所に対する抗議行動を行った際、右職員の氏名をアジ演説の中で取り上げたり、本件拘置所に隣接する路上において配布したビラに記載するなどして、右職員が在監者に対しあたかも不当な職務を行っているかのごとく公衆の面前において個人攻撃され、さらに在監者に差し入れられたパンフレットにも同様の記載がなされる等して、職員及び本件拘置所敷地内に居住するその家族が精神的苦痛を強いられたことがあった。

そこで、以後同種事件の発生を未然に防止するために、本件拘置所の職員の氏名を在監者に知らせないこととし、その方法として在監者宛に送付された信書やパンフレット類に記載されている職員の氏名を、在監者の同意を得て抹消したうえで交付することとした。

(二) 本件判決書写しには、同事件の被告国の指定代理人中に、本件拘置所の職員の氏名が記載されていたところ、本件拘置所長は、本件判決書写し中の右指定代理人の氏名を抹消しない場合、原告が面会時に外部の者に対し右職員の氏名及び具体的職務内容等を伝えることにより、右(一)と同様の抗議行動を誘発する蓋然性があると判断して、本件第三措置を執った。

2  右1(一)の事実及び前記第三の三の1の(一)ないし(三)(原告の処遇歴等)の事実によれば、本件拘置所の右1(二)の判断には合理的な根拠があるものと認められる。もとより、そのことから直ちに本件拘置所の管理運営上の支障が生ずる相当程度の蓋然性が認められるとは断定しがたいが、そもそも、原告が問題とする判決の指定代理人の表示部分は、判決の必要的記載部分ではなく、図書としての判決においては末梢的部分であって、図書(判決)を理解する上では、ほとんど必要性のない部分であるということができるし、仮に原告が原告主張の訴訟提起の準備のため本件判決書写しの差し入れを受けたものであるとしても、右判決の本案についての判断内容と別個に、自ら当事者となっていない国家賠償請求事件の国の指定代理人の一部の者の氏名を知らないことにより、具体的な不利益を受けるとはにわかには想定しがたく、したがって、原告主張の損害の発生を肯認することは困難である。してみると、本件第三措置に関する原告の請求も理由がない。

第六  本件第四措置について

一  争いのない事実

原告は、平成二年八月四日、原告の妻から書籍『日本語大辞典』(講談社)の差し入れを受けた。

これに対し、本件拘置所長は、同月七日、右書籍の二二四二頁及び二二四三頁に記載された「言葉の資料便覧・手話の基礎知識」と題する記載全部の閲読を不許可とし、右記載の抹消同意を条件に右書籍を交付する旨、原告に告知した。原告がこの抹消に同意したところ、本件拘置所長は、同月九日、右記載を全部抹消した上で、右書籍を原告に交付した。抹消面積は、各ページとも、23.5×16センチメートルであった(以下、「本件第四措置」という。)。

二  争点

1  原告の主張

(一) 原告が手話を用いて他の在監者や外部の者に不正な連絡をするなどという具体的、現実的蓋然性はほとんど考えられない。すなわち、第一に、手話は相手方にも同じ知識がなければコミュニケーションの手段となりえないものであるところ、原告に接する者が右のような知識を持っている可能性は極めて低いこと、第二に、原告は本件拘置所に収容されてから一貫して厳正独居拘禁の処遇を受け、他の在監者との一切の接触を禁じられているのであるから、原告が他の在監者と手話を用いて実質的なコミュニケーションを行いうるような接触の機会は全くないし、仮に右のような機会が生じたとしても、不慣れな手話を用いるよりも口頭で話す方が確実で速いのであって、不正な連絡のためにあえて手話を用いなければならない必要性は全くないこと、第三に、原告と本件拘置所の外部の者との接見の場合には、必ず本件拘置所の職員が立ち合うから、仮に原告が右接見の際に手話を用いて相手方と話し始めたとしても、職員としてはこれを制止すれば足りることからすれば、原告の身柄確保等を阻害するような重大な通謀がなされる具体的蓋然性はほとんど考えられないというべきである。

(二) かえって、手話は、聴覚障害者のコミュニケーションの手段として文化的価値を有するものであり、健常者が手話を学ぶことは、障害者の立場を理解し、障害者の人権を確立するためにきわめて有意義なこととされていること、また、現在は健常者である原告も、病気や事故によって聴覚を失う可能性がないとはいえず、そのような場合に備える必要性もあることからすれば、手話を学習することは、表現の自由から派生する憲法上の権利であるというべきである。

(三) 本件では、前記第三の二の1の図書閲読権の制限基準が妥当するところ、右にみたとおり、「相当の蓋然性」の要件を欠く以上、本件第四措置は法律上の正当な理由がなく、監獄法三一条一項に違反し違法である。

仮に本件第四措置が本件拘置所職員が手話を解さないために執られたものであるとすれば、本件拘置所長は同様の理由で在監者の外国語学習を禁止できることになるが、そのような制限が憲法上許されないことは明らかであり、手話学習のみこれと区別する合理的理由は存しない。

2  被告の主張

(一) 本件拘置所においては、「所内生活の心得」第五の二(六)及び(七)において、許可されない連絡(以下「不正連絡」という。)を禁止している。また、ろうあ者を除く一般在監者に対して、手話の使用を認めず、しかも手話に関する図書の閲読も認めないこととしていた。その理由は、仮に一般的な取扱として、手話に関する図書を在監者に閲読させることとした場合、手話を修得した在監者が不正連絡の用途に手話を使用することはないという確たる保障はなく、本件拘置所の保安職員のほとんどが手話を理解できない実情のもとでは仮に不正連絡に使用されたとしてもその使用事実さえも承知できない事態が予測されたからである。

(二) 本件第四措置による抹消部分は手話の方法に関する詳細な記載の部分であるところ、原告は手段を選ばないテロ行為を行ってきた左翼過激派集団の一員であり、あらゆる手段を講じて外部連絡を画策した経緯があること及び過去に多くの規律違反行為を繰り返し、本件拘置所の規律そのものを否定していたともとれる言動があり、右規律違反行為の中には挙手による他の在監者との不正連絡もあることを考慮すると、原告が本件措置に係る抹消部分を閲読して手話を修得した場合には、手話を手段として不正連絡を働いて規律違反行為を行い、ひいては本件拘置所の規律又は秩序維持上放置しがたい程度の障害を生ずる相当の蓋然性が認められたというべきである。

(三) そして、本件拘置所において不正連絡を未然に防止するためには本件措置を講ずる以外に有効な措置はなく、本件措置はやむを得ないものであったというべきであり、しかも前記のとおり、死刑確定者に対する規律及び秩序維持上の必要のために行う自由の制限基準につき、未決拘禁者の場合の「相当の蓋然性」よりも低い蓋然性をもって制限が認められるべきであることからすれば、本件措置が必要であるとの本件拘置所長による判断には合理性が認められ、右判断に基づく本件第四措置は監獄の長に認められている裁量権の行使の範囲内でおこなわれたものであって、適法であるというべきである。

三  争点に対する判断

1  前記第三の三の1の(三)及び(四)(原告の支援者の動向、原告の心情)、第六の一(争いのない事実)の各事実に、証拠(甲一八、乙二、証人水上要)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 本件拘置所においては、ろうあ者でない在監者に対しては、接見時や入浴・運動・診察等のための連行時に、手話が不正連絡の用途に使用されるおそれがあること、仮に一般的な取扱として、手話に関する図書を在監者に閲読させることとした場合、手話を修得した在監者が不正連絡の用途に手話を使用することはないという確たる保障はなく、本件拘置所の保安職員のほとんどが手話を理解できない実情のもとでは仮に不正連絡に使用されたとしてもその使用事実さえも承知できない事態が予測されたことからその使用を認めず、手話に関する図書の閲読も認めないこととしていた。

(二) 原告の死刑確定後、本件拘置所は、原告の身柄及び心情の安定の確保のため、支援者等との外部交通を制限していたが、他方原告は様々な方策によって外部との連絡手段を確保しようと腐心しており、内容を限定して外部交通を許可された相手方である複数の弁護士への発信において、当該弁護士が受任している用務とは何ら関係のない事項を記載して発信しようとしたり、再審請求弁護人との接見の際、支援者が原告に手紙等を送付する場合には弁護士の名前を使えばよいと述べたり、実父との面会時においても、実父あてに書く信書は実父にあてたものであると同時に他の者にあてたものであるなどと、実父を窓口として他の支援者との交通を企図する趣旨の発言をしていた。

(三) 本件拘置所長は、日本語大辞典中の手話に関する記載について、これをそのまま原告に閲読させた場合、原告が手話を利用して連絡を行うなどして、ひいては本件拘置所の規律又は秩序の維持上放置し難い程度の障害が生じる相当の蓋然性が認められると判断し、本件第四措置を執った。

2  前記第三の三の1の(一)ないし(三)(原告の処遇歴等)並びに右1の(一)及び(二)のとおり、多数の在監者を少数の保安職員で集団で管理している本件拘置所において、保安職員のほとんどが手話を理解しない状況の下においては、一般的取扱いとしてろうあ者でない在監者に対し不正連絡防止の観点から手話の使用を認めないとしてきたことにはそれなりの合理性が認められることに加え、原告は、本件拘置所に対し繰り返し攻撃的な態度を示し、死刑確定後は様々な方法により本件拘置所側の認めない連絡を行おうとしてきたものであることに照らすと、本件第四措置当時において、原告に手話に関する図書を閲読させた場合には、原告が手話を利用して他の在監者等との連絡を図るなどして、ひいては本件拘置所の規律又は秩序の維持上放置し難い程度の障害が生じる相当の蓋然性があるとした本件拘置所長の判断には、それが本来予測的判断であることに照らすと、合理的な根拠があったものと認めるのが相当である。また、前記障害を防止するためには、当時の状況の下では本件第四措置以外に有効な措置はなかったものと認められるから、仮に在監者の中に手話を習得しそれによる原告との連絡の相手となるべき者がいなかったとしても、本件拘置所長の右措置が必要であるとした判断が合理性を欠くとまではいえない。

したがって、本件第四措置が違法であるとまではいいがたい。

なお、手話の有意義性については原告も指摘するところであるところ、証人水上要の証言及び弁論の全趣旨によれば、本件拘置所長は、本件拘置所内外の情勢を踏まえ、平成三年ころからそれまでの一般的な取扱いを変更し、手話に関する一般文献については原則としてその閲読を認めており、原告もまた『手話のハンドブック』(篠田三郎・全日本ろうあ連盟共編、三省堂)(甲第一五号証)等の図書の閲読をしていることが認められるが、そのことから本件第四措置当時の本件拘置所長の判断を非難することは正鵠を得ない。

第七  本件第五措置について

一  前提となる事実(以下の事実は、括弧内にその認定証拠を掲げた事実を除いて、当事者間に争いがない。)

原告は、前記死刑判決確定後、刑事訴訟法四四〇条により弁護人(以下「再審請求弁護人」という。)を選任して再審請求を行っており、死刑確定の日である昭和六二年四月二一日から平成二年九月三〇日までの間に、再審請求弁護人と八九回接見している(甲一)。

本件拘置所長は、原告と再審請求弁護人との接見時間を一回三〇分以内に制限し、原告及び再審請求弁護人の一三回の時間延長の要求に対して四回は一五分間の延長を認めたほかは、時間延長を認めなかった(以下、右の接見時間の延長を認めなかった処分を「本件第五措置」という。)。

なお、原告は右以外にも一五分程度の延長を認められたことがあるが、再審請求弁護人が来所しなかったため接見が実施されなかったことがある。

二  争点

1  本件第五措置の違法性

(一) 原告の主張

(1) 規則一二一条ただし書は、在監者と弁護人との接見について、同条本文が右以外の接見について設けている三〇分以内という制限を適用しない旨規定している。同条ただし書にいう「弁護人」とは、刑事訴訟法が規定する弁護人をいうものと解されるところ、刑事訴訟法四四〇条が再審請求者に対しても弁護人選任権を保障しており、再審請求を準備し、追行するためには原審に劣らぬ詳細かつ複雑な打ち合わせが必要とされる以上、規則一二一条ただし書の「弁護人」には再審請求弁護人も含まれるというべきである。とすれば、右規則一二一条の趣旨としては、再審請求弁護人との接見について、一般接見者の場合と同様にその時間を三〇分以内に制限するものではないというべきである。

(2) 仮に規則一二一条ただし書を刑事被告人に関する特則と解した場合でも、法九条により刑事被告人に関する特則は死刑確定者に準用されるのであるから、右規則の規定も死刑確定者に準用される。右のように準用することにより他の法令に矛盾抵触することになるとか、身柄確保という拘禁目的に支障が生じることもない。

(3) したがって、本件拘置所長には、原告と再審請求弁護人との接見時間を三〇分以内に制限する法令上の権限を有していないのであるから、接見時間を三〇分以内に制限した措置は、法四五条一項、規則一二一条ただし書に反し違法である。

なお、被告は、原告の接見時間延長の申請のうち、九回については接見の内容が再審の打合せにあたらなかった旨主張しているが、右のような事実はない。

(二) 被告の主張

規則一二一条は、接見の時間について、「接見ノ時間ハ三十分以内トス但弁護人トノ接見ハ此限ニ存ラス」と規定し、死刑確定者を含めた在監者一般について、弁護人との接見を除いては、原則として三〇分以内であることを定めている。

ところで、刑事訴訟法上、死刑確定者と再審請求における弁護人との接見交通についての直接の規定は存せず、また、法においても、死刑確定者と再審請求における弁護人との接見交通について特別の規定はなく、接見の際の無立会を保障した規則一二七条一項及び接見時間の無制限を保障した規則一二一条ただし書の各「弁護人」にはいずれも再審請求における弁護人を含まないものというべきである(東京地方裁判所平成元年三月一日決定・訟務月報三五巻九号一七〇二頁参照)。

そして、刑事被告人等の未決拘禁者については無罪の推定が働き、有罪判決の確定までは身柄は拘束されないのが原則であるのに対し、死刑判決の確定者については、同人を有罪として死刑を言い渡した確定判決の効力により拘束されているものであり、また、死刑の執行のために必然的に付随する手続として、一般社会とは厳に隔離されるべき者として拘禁されているものであるから、法は、死刑確定者に対して、少なくとも再審開始の決定のある前においては、未決拘禁者に関する規定をそのまま準用することを予定しているものと解することはできない。

したがって、右死刑確定者の拘禁の目的及び性質に照らし、合理的な限度においては、死刑確定者と再審請求における弁護人との接見交通について、ある程度の制限を加えることが許されると解されるところ、再審開始の決定が確定していない原告と弁護士との接見時間については、規則一二一条本文の規定によるべきものであり、例外的に規則一二四条の規定により監獄の長が、処遇上その他の必要があると認めた場合に限り、時間の延長が認められる場合もあるにすぎないものであって、本件措置に何ら違法な点は認められない。

2  消滅時効

(一) 被告の主張

(1) 民法七二四条が不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点を、損害及び加害者についての被害者の主観的な認識の時点としたのは、不法行為の場合、客観的に権利が発生していても、被害者において直ちに損害及び加害者を知りえない場合があり、そのために現実に損害賠償請求権を行使できない場合も生ずるからである。したがって、「損害ヲ知リタル時」における損害とは、単に発生した損害を知ることだけでは足りず、その損害が違法な行為により生じたものであることの認識を要する。そして、違法性の認識とは、加害行為が違法とみられる可能性のある事実の認識をいい、一般的には、加害行為の行われた状況から通常違法性を認識しうるか否かによって判断される。

(2) 本件第五措置のうち昭和六二年一〇月一九日以前の接見二七回については、当時原告において右認識を有していたことは多言を要せず、本件提訴時までに既に三年を経過しているから、損害賠償請求権は時効により消滅している。被告は、本訴において右消滅時効を援用する。

(二) 原告の主張

民法七二四条の「損害及ビ加害者ヲ知リタル時」とは、通常の行政行為のように普通人がその違法性を知ることが困難な事案については、特別な事情がない限り、当該行為の違法性を肯認する確定判決を知った時とみなすことが相当である。

本件第五措置はいずれも通常の行政行為であり、かつ特別な事情もないから、未だ消滅時効は成立していない。

三  争点に対する判断

1  前記一(争いのない事実)の事実に、証拠(甲一、一八、乙二、証人水上要、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 本件拘置所においては、死刑確定者と弁護士が再審の打合せのために行う接見について、一般接見の基準(規則一二一条本文に基づき三〇分以内とされる。)で実施しており、接見時間の延長についても、その都度、在監者にその必要性を疎明させた上で、個別に判断し、必要性を認めた場合は延長を認める等の措置を執っていた。

(二) 原告は、死刑確定日である昭和六二年四月二一日から平成二年九月三〇日までの間に、再審請求の打合せのためとして、担当の弁護士と八九回の接見を行い、そのうちの一三回の接見について、原告から事前に接見時間延長の出願があった。

本件拘置所長は、うち四回は一五分程度の時間延長を認めたが、出願のあったその余の接見については、それ以前の接見内容が再審請求の打合せの他、外部支援者や民事事件に関する事柄等に及んでいたこと等から、接見内容が再審請求の打合せと認められないとの理由で、時間延長の出願のない接見と同様に一般接見の扱いとし、三〇分以内の時間内で実施した。

2  そこで、本件第五措置の違法性について判断する。

(一) 原告は、再審請求を準備し、追行するためには原審に劣らぬ詳細かつ複雑な打ち合わせが必要とされることを理由に、再審請求弁護人に規則一二一条ただし書が適用される、ないしは法九条により準用される旨主張している。

しかしながら、規則一二一条ただし書は「弁護人トノ接見」について規定しているものであるところ、有罪判決が確定した者と右判決に関する再審請求弁護人との接見について、被告人又は被疑者と弁護人との接見交通権を定めた刑事訴訟法三九条の直接の適用はないことは明らかであり、他に同法上特別の規定はなく、また、法においてもかかる規定はないから、有罪判決が確定した者と右判決に関する再審請求弁護人との接見が規則一二一条ただし書の「弁護人トノ接見」に含まれると直ちに解するのは困難であるし、実質的にみても、被告人又は被疑者は、いわゆる無罪の推定を受ける者であり、右事件の弁護人との接見交通の機会を保障し防禦の準備を十全ならしめる必要があるところ、再審の請求から決定までの手続は、既に判決が確定した後のものであって、一般の捜査及び公判の手続とは性格を異にするものであるから、被告人又は被疑者の弁護人と再審請求弁護人とを当然に同一に論じることもできない。また、法九条は、死刑確定者の処遇についての規定であり、有罪判決が確定した者と再審請求弁護人との接見は、死刑確定者固有の問題ではないから、法九条に関する原告の主張は採用できない。

したがって、規則一二一条ただし書を根拠に、再審請求弁護人との接見につき、接見時間の無制限が保障されるとすることはできず、監獄の長は、再審請求弁護人との具体的な接見交通について、一定の範囲内において相当の措置を執る権限が与えられているものと解するのが相当である(もっとも、再審請求弁護人との接見の重要性については、原告の主張に是認できる点もあり、実際の接見時間の制限にあたっては、再審請求について実質的な打合せに必要な時間を確保できるよう、一般の接見とは異なる配慮をする必要があると思われる。)。

(二) 本件においては、原告は再審請求の打合せのためとして再審請求弁護人と約三年半の間に八九回にわたり接見していること、その際再審請求の打合せ以外の事項にも言及したことが窺われること、他方、原告の一三回の時間延長請求に対し、個別に検討した上で必要性が認定されるとして四回はこれを許可していること等の事情が認められることからすると、再審請求の打合せのために必要な相当程度の接見時間が確保されていたものというべきであり、接見時間の延長を認めなかった本件拘置所長の本件第五措置に裁量権を逸脱した違法があったとは認め難い。

第八  本件第六措置について

一  前提となる事実(以下の事実は、括弧内にその認定証拠を掲げた事実を除いて、当事者間に争いがない。)

1  原告は、昭和五二年以降現在まで、本件拘置所の在監者処遇について争う民事訴訟ないし行政訴訟を多数提起し、平成二年一〇月一日現在で八件(口頭弁論数)が係属中であった。

2  原告は、昭和五六年六月二九日、訴訟に係る書類作成のため、本件拘置所長に対し印章の差し入れ許可を出願し、同月三〇日、許可された。なお、印章は、原告が必要とする度に舎下げして一定期間使用し、使用が終われば領置する取扱いとされていた。

3  昭和六一年四月一二日ころ、原告が民事訴訟の書類作成のため印章の舎下げ・使用許可を出願したところ、本件拘置所長はこれを不許可とした。

原告が右取扱いに対し不服を申し立てたところ、原告の居房を管轄する第三区長は、原告に対し、同月一七日及び二二日、印章の使用は、法令上指印押捺では支障が生じる場合に限り許可するのが本件拘置所の原則であるところ、原告の右出願に係る書類は法令上指印押捺で代用ができない書類とは認められないため不許可とした旨回答をした。

4  同年一〇月二五日、原告は、民事訴訟の訴訟記録謄本の交付請求書を作成するため印章の舎下げ・使用許可を出願したが、本件拘置所長は、同月二九日、これを不許可とした。右処分を告知した第三区長は、原告に対し、不許可の理由として、裁判所に確認したところ指印で足りるとの回答であったから許可しない旨告知した。

5  原告は、平成二年二月二一日、訴訟書類作成のため印章を舎下げし、これを継続して所持、使用することの許可を出願したところ、同年三月一二日本件拘置所長はこれを不許可とした(以上、3から5までの印章の舎下げ等の不許可処分を「本件第六措置」という。)。

二  争点

1  本件第六措置の違法性

(一) 原告の主張

(1) 法五二条は、在監者が領置物を処分又は使用することについて、その許否を所長の裁量に委ねているが、右裁量は無制限なものではなく、在監者の拘禁目的や施設の正常な管理運営という目的に沿った合理的なものでなければならないというべきである。そして、原告が訴訟を追行するのは憲法上保障された裁判請求権の行使であり、訴訟書類への押印は法律が要求しているものであるから、原告がその領置物である印章を訴訟書類の作成に使用することは、法五二条により領置物の使用等が許可され得る「正当の用途」に該当する。右のように領置物が正当の用途に用いられる場合であるにもかかわらず、右使用を不許可とするためには、本人の拘禁目的や施設の正常な管理運営に支障が生ずる相当の蓋然性が認められるなど、当該用途の法的利益または事実上の利益よりも重大な特段の事情が認められなければならないというべきである。

しかし、本件第六措置で問題となった印章は、木製の、直径一二ミリメートル、長さ五〇ミリメートルほどの、いわゆるハンコにすぎない(もっとも、印章は、自己の意思を表示するものとして文書に押捺した場合に一定の法律効果を生じさせるものであるが、原告の房内にあるボールペンによっても、自己の意思を表示する署名を行えば、一定の法律効果を生じる文書を作成することができるのであって、両者の間に本質的差異は認められない。また、原告の房内には、ボールペンのほか、サインペン、シャープペンシル、筆ペン、定規、筆箱、毛筆、箸、箸箱、ヘアブラシ、歯ブラシ、耳掻き、座卓、はたき、箒、やかん、アルミの盆、ハンガー、缶詰などが日常的に置かれているが、これらの物品と比べて印章が格別危険なものであるとは到底考えられない。)のであるから、原告に本件印章の所持や使用を許可した場合に原告の拘禁目的たる身柄の確保や施設の正常な管理運営を阻害することになる相当の蓋然性があると認めるべき事情はなかった。したがって、原告が訴訟書類の作成という正当の用途のために本件印章の所持及び使用を出願している限り、本件拘置所長には右出願を拒否する合理的理由は存しなかったというべきである。

被告は、昭和五六年から昭和五九年まで印章使用の出願回数が年五回程度であったものが昭和六〇年に一二回程度に大幅に増加した旨主張しているが、そのような事実はないし、また、印章の継続的な房内所持を認めれば事務上の支障は容易に避けられたのであるから、本件措置を正当化するものではない。

被告は、また、印章の目的外使用の事実を主張しているが、右事実はないし、仮に右事実があったとしても、なんら施設の管理運営に支障を生じるものではない。

(2) 本件第六措置による不許可理由は、訴訟書類への押印が指印でもって代替できるというものである。

しかしながら、指印の押捺による方法は、印章が手元にない場合の代替方法にすぎないこと、指印に用いられる印肉は一フロアーにつき四〇名もの在監者が消毒もせずに共用しているものであって極めて不衛生なものであること、指印押捺は他人に秘密にしている身体の形状を書類上に転写するものであって、憲法により保護されたプライバシーの侵害を伴うものであることなどから、印章の使用が可能であるにもかかわらず、指印押捺を原告に強制するためには、相当の理由及び法的根拠が必要であるというべきである。

本件においては、訴訟書類の作成について、本件拘置所長が許可すれば印章を使用できる状態にあり、かつ、前記のとおり本件拘置所長には右許可を拒むべき理由もないし、また、印章の代わりに指印による押捺を原告に強制すべき法律上の正当な理由も存しない。

(3) 本件拘置所長は、紛失のおそれを理由として、印章の継続的な房内所持を認めていないが、原告のように、独居房に収容され他の在監者から完全に隔離されていて、出房の機会もほとんどない者の居房から、印章が紛失するおそれがあるとは考え難いし、万一紛失したとしても、特別の事情がない限り現実の所持者である在監者本人の責任となるのであるから、施設の管理運営に支障が生じるとは考え難い。むしろ、舎下げや領置のための出し入れや移動の際の方が紛失の危険は高く、その場合、施設の責任問題が生じることは避けられないのであるから、施設の管理運営上の支障の発生を避けるためには、印章の継続所持を認めるべきである。

(4) したがって、本件拘置所長による本件第六措置には正当な理由がないのであるから、右措置については、法五二条による所長の裁量権を逸脱または濫用した違法があるというべきである。

(二) 被告の主張

(1) 在監者の私物品の所持・使用の制限について

法五一ないし五三条、五五条及び規則一四八条の各規定の趣旨、処遇の平等、保安、規律、衛生等行政上の要請並びに在監者の財産権保護の趣旨から在監者個人の金品の拘禁中の使用又は処分権は大幅に制限され、在監者に所持品の使用を認めるか否かは、原則として監獄の長の自由裁量に委ねられているというべきである。したがって、監獄の長は、在監者が居房で所持できる物につき一定の基準を設け、それ以外の物品の使用については、その都度個別的に判断して、合理的で必要最小限の使用に制限しうるというべきであり、本件拘置所においても、日用品及び文具品を居房で所持できるものとし、その余については個別に在監者に出願させ、審査の上合理的な必要性を認めた場合に限り、当該物品の所持・使用を認める扱いとしている。

(2) 領置物品の領置手続等について

領置物品はその品目及び数量を個人別の領置品基帳に登載し、所長の証印を押印したうえ(規則一四〇条)、倉庫又はこれに代わる場所に保管される(事務章程一〇〇条本文)。領置物品を舎下げする場合は、舎下げ願せんを提出させ、使用を認める場合は、領置の措置を解除し、領置品基帳に交付の旨を記載する等の手続を行った上、在監者に所持させている。そして、その使用を終えたときは、再び領置の手続を行った上で保管することになる。

領置物品のうち、証券、貴金属その他特に貴重品と認められるものについては、特別領置物品として金庫その他堅牢な容器に収めて保管しなければならない(事務章程一〇〇条ただし書)とされ、具体的には、一般の領置物品と同様に領置品基帳に登載するほか、朱印で特別領置物品である旨を表示した上、必要事項を記載し、かつ特別領置品書留簿にも登載して、収納袋に入れて封緘の上金庫に厳重に保管している。

印章は特別領置物品に該当するところ、在監者に印章の使用を認める場合、その都度、領置品基帳に交付の旨を記帳の上、特別領置の措置を解除して当該在監者にその物を所持させ、その使用を終えたとき、再び領置品基帳に特別領置の旨を記帳し、印章を封緘の上、特別領置の措置をとることとしている。

このように、印章を含め特別領置物品については特に慎重な取扱いがなされているため、その舎下げの回数が増加すれば事務取扱いがさらに煩雑となり、紛失の危険性も増大するなど、拘置所の管理運営に支障が生ずることから、原則として舎下げは許可されておらず、ただ印章等の品目については、使用する必要性を斟酌し、その使用が相当であれば使用目的を限定するほか、使用期間を最小限の期日に限定して舎下げを許可している。

また、在監者に継続的に印章を所持させた場合には、紛失することも懸念されることから、管理責任上これを認めることはできない。

(3) 本件措置の適法性

本件における原告の印章の所持・使用に係る出願回数が、昭和五六年から昭和五九年まで毎年五回程度であったものが、昭和六〇年には一二回程度と大幅に増加し事務に支障が生じたこと、法律上、原告の左手示指の指印の押捺でも支障を生じないこと、昭和六一年三月三一日に原告に印章を使用させた際、申出のあった使用目的以外の書面に印章を使用したことがあったことから、本件拘置所長は、原告の本件における出願を不許可としたのであって、その裁量権の範囲内の行為であり、適法である。

2  消滅事項

(一) 被告の主張

(1) 前記第七の二の2の(一)の(1)のとおり、民法七二四条の「損害ヲ知リタル」とは、損害が違法な行為により生じたものであることの認識をいう。そして、違法性の認識とは、加害行為が違法とみられる可能性のある事実の認識をいい、一般的には、加害行為の行われた状況から通常違法性を認識しうるか否かによって判断される。

(2) 本件第六措置のうち昭和六一年四月一二日ころ及び同年一〇月二九日の各不許可告知については、当時原告において右認識を有していたことは多言を要せず、本件提訴時までに既に三年を経過しているから、損害賠償請求権は時効により消滅している。被告は、本訴において右消滅時効を援用する。

(二) 原告の主張

民法七二四条の「損害及ビ加害者ヲ知リタル時」とは、通常の行政行為のように普通人がその違法性を知ることが困難な事案については、特別な事情がない限り、当該行為の違法性を肯認する確定判決を知った時とみなすことが相当である。

本件第六措置はいずれも通常の行政行為であり、かつ特別な事情もないから、未だ消滅時効は成立していない。

三  争点に対する判断

1  証拠(甲一〇、一八、乙二、証人水上要、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 本件拘置所においては、規則(一四〇条)及び事務章程(一〇〇条本文)に基づき、在監者の所持品を領置する場合には、その品目及び数量を個人別の領置品基帳に登載し、本件拘置所長の証印を押捺した上、倉庫またはこれに代わる場所に保管し、領置物品を舎下げする場合は、舎下げ願せんを提出させ、使用を認める場合は、領置の措置を解除し、領置品基帳に交付の旨を記載する等の手続を行った上、在監者に所持させ、その使用を終えたときは、再び領置の手続を行った上で保管する手続をとっている。

また、事務章程(九七条、九八条、一〇〇条ただし書)によれば、領置物品の出納保管は、会計事務管理者又は刑務支所長及び拘置支所長の命令により領置物品取扱主任官が取り扱い、領置物品取扱主任官が領置物品を受け取ったときは、携有品及び収容者宛の差入品を除き、領収の証書を交付し、領置物品のうち、証券、貴金属その他特に貴重品と認められるものについては、特別領置物品として金庫その他堅牢な容器に収めて保管しなければならないとされているところ、本件拘置所においては、会計課領置係が領置物品取扱主任官として右業務にあたっているが、同所での領置物品の受け払いは、本件第六措置当時、一日約一五〇〇件程度に及んでおり、また、印章については、右特別領置物品として取り扱っている。すなわち、印章を領置する場合には、一般の領置物品と同様に領置品基帳に登載するほか、朱印で特別領置物品である旨を表示した上、必要事項を記載し、かつ特別領置品書留簿にも登載して、収納袋に入れて封緘の上金庫に厳重に保管し、在監者に印章の使用を認める場合、その都度、領置品基帳に交付の旨記帳した上、特別領置の措置を解除して当該在監者にその物を所持させ、その使用を終えたとき、再び領置品基帳に特別領置の旨を記帳し、印章を封緘の上、特別領置の措置をとることとしているものである。

(二) 本件拘置所では、印章を含め特別領置物品については特に慎重な取扱いがなされているため、その舎下げの回数が増加すれば事務取扱いがさらに煩雑となり、紛失の危険性も増大するなど、拘置所の管理運営に支障が生ずることを理由として、原則として特別領置物品の舎下げを許可せず、ただ印章等の品目については、使用する必要性を斟酌し、その使用が相当であれば使用目的を限定するほか、使用期間を最小限の期日に限定して舎下げを許可していた。なお、紛失の危険があることから、在監者に継続的に印章を所持させることは認めていない。

(三) 原告に係る印章の舎下げの許可の回数は、昭和六〇年に一二回にのぼっていた。

2  そこで、前記一の事実及び右認定事実に基づき、本件第六措置の違法性について判断する。

(一) 前記第四の三の2の(一)のとおり、法五一条、五二条は、舎下げによる領置物の使用の許否について、使用の目的、監獄の状況等を考慮した監獄の長の裁量に委ねているものと解すべきであり、監獄の長の判断が合理性を欠き裁量権の範囲を逸脱している場合でなければ違法とされるべきではないというべきである。

(二) まず、社会通念上の印章の重要性を考慮すると、その扱いは慎重であるべきであって、本件拘置所長が印章を特別領置品として扱っている点には一応の合理性がある。そして、右のとおり、本件拘置所においては従来から領置物の出納事務に相当の負担を生じていたこと、原告自身それまで相当多数回の印章の舎下げを受けていたことなどの事情によれば、本件拘置所長が印章の舎下げについては原則として法令上指紋押捺で支障が生じる場合でない限り許可しないとの基準の下に、本件第六措置を執ったことには合理性がないとはいえず、裁量権の範囲を逸脱した違法があるとまでは認められない。

第九  本件第七措置について

一  争いのない事実

本件拘置所長は、在監者の戸外運動につき、規則一〇六条の定める雨天のほか、入浴日、日曜、祝日、閉庁土曜日を戸外運動実施日から除外している(以下戸外運動に関する右措置を「本件第七措置」という。)。このため、本件拘置所在監者は、最大でも年に一五八回の戸外運動の機会が与えられているにすぎず、原告は、平成元年には一五六回しか戸外運動の機会がなかった。また、平成元年一月一日から平成二年九月三〇日までの間、三日連続して戸外運動がなかったことが五〇回、四日連続が七回、五日連続が四回、六日連続が一回及び七日連続が一回あった。

二  争点

1  原告の主張

(一) 憲法二五条は、精神的・身体的に健康な生活を営む権利を基本的人権として保障し、同条二項により、国は在監者に対しても右権利を具体的に保障する責務を負わされているところ、法三八条及び規則一〇六条の各規定は、国の右責務を具体化したものと解される。そして、「在監者ニハ雨天ノ外毎日三十分以内戸外ニ於テ運動ヲ為サシム可シ」と規定する規則一〇六条本文は、在監者の心身の健康保持に必要な運動の最低基準を定めたものと解されるのであるから、同条ただし書による例外的事由が認められる場合以外は、在監者は雨天以外、毎日少なくとも三〇分の戸外運動の機会を与えられる権利があるというべきである(国際連合の被拘禁者処遇最低基準規則二一条参照)。したがって、同条にいう「雨天ノ外毎日」とは、公判出廷日など条理上例外と認められるべき場合を除き、文言通り解すべきであって、雨天以外の理由で毎日の戸外運動の機会を奪うことは許されない。

(二) また、医学的に見ても、心身の健康維持のためには毎日の運動が必要不可欠である。すなわち、医学的には、通勤、労働あるいは家事等でかなり身体を動かしている一般の生活者であっても、ジョギング程度の強度がある全身運動を毎日三〇分以上続けなければ確実に身体の衰えを早め、種々の成人病や障害を引き起こすことになるところ、狭いコンクリートの独房の中で座り続けなければならない原告にとっては毎日三〇分の戸外運動が心身の健康維持にとって必要不可欠の条件であるというべきである。

厚生省保健医療局健康増進栄養課編「日本人の栄養所要量」(昭和五九年版)によれば、四〇歳代の平均的体格の男性は、毎日二三五〇キロカロリー以上を消費するように体を動かすことが健康維持のために望ましいとされているところ、原告が本件拘置所の規則どおりに生活した場合、戸外運動のない日の消費エネルギーは一九九六キロカロリーに止まり、健康維持のために望ましいとされる量のエネルギーを消費するためには、一時間三〇分の、ジョギング程度の強度を持つ戸外運動が必要である。にもかかわらず、原告は一日平均一三分ほどの戸外運動しか許されておらず、しかも最も隔離性及び拘禁性が強い厳正独居拘禁の処遇を受けているうえ、戸外運動以外で、短時間でも居房の外に出る機会は月数回の面会(接見)しかない。

(三) 被告は本件第七措置の理由として職員数の不足を挙げているが、一日当たり二〇名程度の職員が確保できれば、毎日三〇分の戸外運動を実施することは十分に可能である。すなわち、職員三名を一組として七組に分けると一組あたりの収容者数は約二三〇名となる。一回につき四〇名の収容者を運動させれば六回(三時間)で当日の運動は終了する。

また、被告の指摘する一日三〇分の室内体操は、毎日三〇分の戸外運動に代わりうるものではなく、これを補うものであるに過ぎないから、本件措置を正当化するものではない。

(四) 右によれば、本件拘置所長が、原告に対して、入浴日、日曜、祝日及び閉庁日に戸外運動の機会を与えないのは、法三八条及び規則一〇六条に違反し違法である。

仮に規則一〇六条一項が毎日三〇分の戸外運動請求権を保障したものではないとしても、原告は現に運動不足による体力低下、腰痛等に苦しめられているのであるから、本件措置は少なくとも法三八条に違反し違法である。

2  被告の主張

(一) 在監者の戸外運動に関する法的解釈について

法三八条及び規則一〇六条一項本文は、在監者の健康保持を目的として行刑施設の行う施策を定めたものにすぎず、これをもって在監者に対し戸外運動請求権を発生させるものではなく、規則一〇六条一項本文に従った戸外運動がなされなかったとしても、特段の事情のない限り、在監者の権利を侵害するものとはいえない。結局、法が目的とする戸外運動実施の趣旨に違背するか否かは、当該行刑施設における具体的な人的・物的戒護能力と当該被収容者の実質的な運動量とを総合して判断すべきであり、少なくとも毎日の戸外運動実施が拘置所における右戒護能力の限界を越える場合には、やむを得ずその運動の一部を他の形で補うことも、法三八条及び規則一〇六条の趣旨に必ずしも反するものとはいえない。

(二) 本件措置の適法性について

本件拘置所の保安業務に携わる職員数三八〇名程度のうち、幹部職員、昼夜勤務の非番者、研修所への入所者、休暇及び出張中の者等保安業務に従事できない職員を除くと、おおむね一日平均二七〇名程度にすぎず、この職員数をもって一六〇〇名前後(平成元年における一日平均収容人員)の被収容者に対する戒護及び処遇、施設の警備及び保清、受刑者の刑務作業の実施、出廷業務等の保安業務を実施しなければならないため、被収容者の運動に充てられる職員数は一日二〇名程度というのが実情である。休日においては平日と異なり、更に配置可能な職員数が少なくなり、しかもその大半は舎房等に配置されることになるから、休日に戸外運動を実施することも極めて困難である。

本件拘置所では被収容者を二グループに大別し、一週間のサイクルを定めてそれぞれ曜日を指定し、さらに右グループを独居拘禁者を対象とする独居運動、雑居拘禁者を対象とする雑居運動に分けて別々の運動場において戸外運動を実施しているが、運動場の数等の設備上の理由から、同時に運動を実施できる人員には限界があり、また、本件拘置所においては未決拘禁者が被収容者の大半を占めるところ、未決拘禁者は、証拠隠滅防止等の勾留目的を達成するため、単独で運動を実施しなければならない場合が多く、被収容者一人当たり三〇分の運動を当該グループ全員に実施するには、ほぼ全一日を必要とする。また、平日の戸外運動不実施日には、一人当たり一五分間の入浴を実施しているが、運動の場合と同様、入浴場の数等設備上の限界及び未決拘禁者の接触制限の必要等から、被収容者一人当たり一五分の入浴を当該グループ全員に実施するには、運動とほぼ同等の時間を必要とし、入浴実施日に戸外運動を実施することはできない実情にある。

また、本件拘置所では、戸外運動とは別に、毎日、午前と午後の各一回に一五分ずつ、居房における体操の時間を設け、軽い体操を行うことを認めていた。

してみると、本件拘置所長は、被収容者に対し、施設としての戒護能力に照らし実施可能な最大限の運動の機会を与えていたのであるから、法及び規則が要求している被収容者の健康保持上の運動量は十分に確保されているというべきであって、原告に対する本件措置に違法はない。

三  争点に対する判断

1  前記一の事実に、証拠(甲一〇、一八、二一ないし二六、乙二、証人水上要、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 本件拘置所では、日曜日、祝日及び閉庁土曜日(平成四年五月一日からは完全週休二日制のため、全ての土曜日)並びに平日の入浴日及び雨天等で運動場が使用できない日を除き、希望者を対象に一日三〇分間の戸外運動を実施している。その他、戸外運動とは別に、毎日、午前と午後の各一回に一五分ずつ、居房における体操の時間を設定している。なお、入浴日は夏期三か月(七月から九月まで)は一週につき三日、その余の九か月は一週につき二日実施している。

(二) 原告は、平成六年六月現在年齢四六歳、身長一六八センチメートル、体重六二キログラムの男性である。そして、『健康と運動の生理学』(堀清記ほか、株式会社金芳堂)(甲第二二号証)で抜粋、引用されている厚生省保健医療局健康増進栄養課編「日本人の栄養所要量」によれば、四〇歳代の平均的な男性(身長166.1センチメートル、体重62.96キログラム)の一日の消費エネルギー量は、生活活動強度Ⅰ(技術的な仕事、事務的な仕事、管理的な仕事及びこれらに類似した内容の仕事に従事する人等)の場合約二一〇〇キロカロリー、生活活動強度Ⅱ(製造業、加工業、販売業、サービス業及びこれらに類似した内容の仕事に従事する人等)の場合約二三五〇キロカロリーとされ、生活活動強度Ⅰに該当する者は、日常の生活活動の内容を変えるか又は運動を付加することによって、生活活動強度Ⅱに相当するエネルギー量を消費することが望ましいとされている。

原告が一日に消費するエネルギーは、原告の試算するところ(甲二五)を基礎として、基礎代謝量を64.7キロカロリー毎時とし、平均エネルギー代謝率を睡眠、横臥、立ち、室内体操、戸外運動、及び座りについてそれぞれマイナス0.3、〇、0.7、三、四及び0.3とすると、戸外運動日約二二〇〇キロカロリー(睡眠八時間、横臥二時間、立ち0.5時間、室内体操0.5時間、戸外運動0.5時間、座り12.5時間)、入浴も戸外運動も実施されない日約二〇八〇キロカロリー(睡眠八時間、横臥二時間、立ち0.5時間、室内体操0.5時間、座り一三時間)と算出される(なお、原告は、陳述書(甲第二五号証)において、室内体操の実運動時間を一日一六分としているが、実運動時間の内容は必ずしも明らかでなく、右運動時間については開始から終了までの三〇分間を採用して算出したものである。)。また、入浴日はその中間程度と推認される。

(三) ところで、本件拘置所の保安業務に実際に携わることができる職員数は、平日で一日平均二七〇名程度であり、そのうち被収容者の戸外運動に充てられる職員数は一日二〇名程度であり、平成元年当時の本件拘置所の一日平均収容人員約一六〇〇名から受刑者及び出廷者を除いた約一三〇〇名の戸外運動を、右二〇名程度の職員が担当し、休日は、平日より配置可能な職員数が少なく、その大半を舎房等に配置している状況にあった。

(四) 本件拘置所では、被収容者を二グループに大別し、一週間のサイクルを定めてそれぞれ曜日を指定して戸外運動を実施しているが、運動場の数等の設備上の理由から、同時に運動を実施できる人員には限界があり、また、本件拘置所の被収容者の大半を占める未決拘禁者は、証拠隠滅防止等の勾留目的を達成するため、単独で運動を実施しなければならない場合が多く、被収容者一人当たり三〇分の運動を当該グループ全員に実施するには、ほぼ全一日を必要としている。

また、平日の戸外運動不実施日には、一人当たり一五分間の入浴を実施しているが、運動の場合と同様、入浴場の数等設備上の限界及び未決拘禁者の接触制限の必要から、被収容者一人当たり一五分の入浴を当該グループ全員に実施するには、運動とほぼ同等の時間を必要としている。

2  法三八条及び規則一〇六条の趣旨は、在監者が健康を保つのに必要な程度の運動を在監者に保障しようとするものであって、規則一〇六条が戸外運動につき規定しているのは、それが運動の代表的な方法であることから、戸外運動を例にして一応の基準を示したものと解するのが相当である。したがって、本件第七措置が右の保障に違背するか否かは、当該監獄における具体的な人的物的戒護能力と当該在監者の実質的な運動量とを総合的に考慮して決するのが相当である。

右1のとおり、原告の平均的な一日の消費エネルギー量は、生活活動強度Ⅱに該当する者のそれを下回っているものの同Ⅰに該当する者のそれと同程度には確保されていること、同Ⅱに該当する者の消費エネルギー量はあくまで望ましいものとして示されているものであること、本件拘置所はその人的物的能力からすれば相当程度の戸外運動の機会を設けているといえること等に鑑みれば、本件第七措置は本件拘置所の管理運営上やむを得ない処遇であって、法三八条に違反する違法なものであるとまでは認めることはできない(なお、原告は、筋肉・腱の硬化、白内障、耳鳴り、睡眠不足、高血圧、不整脈を訴えており、白内障と不整脈については具体的な診断を受けているようであるが(甲一〇、二六)、遺伝的形質や、神経、神経ホルモン等の要因による心臓に対する影響も考えられる(甲二、二一)のであって、本件第七措置との因果関係は不明であるという他はない。具体的な運動量の不足が右症状の原因であるとすれば、個別的な配慮が必要とされる場合があると考えられる。)。

第一〇  本件第八措置について

一  争いのない事実

原告は、本件拘置所入所後現在までに、一〇〇回以上(死刑確定後の申立については別表3のとおり)、規則九条に基づき所長面接を申し立てたが、これまで、本件拘置所長自らは、原告との面接を行っていない(以下「本件第八措置」という。)。

二  争点

1  本件第八措置の違法性

(一) 原告の主張

(1) 規則九条は、所長に対して申立てを行った在監者との面接を義務付けているところ、右規定は、在監者に所長との面接を直接権利として保障したものとまではいえないが、右所長面接が「監獄ノ処置」を決定する所長に対する不服申立の唯一の法的制度であること、憲法一六条が請願権を基本的人権として保障していることや、法七条による巡閲官情願が二年ごとに実施され(法四条)、全ての面接希望者に対して面接している実情からすれば、所長には適法になされた所長面接申立について、少なくとも半年に一回の割合で個々の面接希望者と直接面接し、在監者の生の声を聞く法令上の義務があるというべきであり、右回数を下回らない頻度で所長と面接することは在監者の法的利益として保障されているものと解すべきである。

そして、所長面接制度は直接主義をとっているものと解されるから、所長が多忙を理由に全く面接に応じなかったり、部下の職員による代理面接のみで終わらせたり、在監者に対して文書による不服を陳述させた上で、これに対する回答を部下の職員に告知させることをもって所長面接に代え、全く面接しないということは許されないというべきである。

(2) 原告の面接申立に対して、本件拘置所当局は次のように処理してきたのであって、本件拘置所における「所長面接」の実体は、当局に対する文書による不服申立制度にすぎず、規則九条の規定する所長面接とは全く異なるものである。

① 原告が所長面接を文書で出願すると、まず区長か保安課長がその内容を審査し、面接の目的しか願箋に記載がない場合には、不服の具体的理由、証拠等を詳細に記載して提出するよう指示し、原告が右指示に応じない場合は、所長名で門前払いの取扱いとなる。

② 右審査を通過した「所長面接申立書」は、全区長、保安課長、教育課長、管理部長で構成される管理部会議で内容を検討し、不服を認容すべきか否かを判定し、右会議の意見として所長に上申される。

③ 所長は右上申に基づき所長回答を決定し、部下職員に裁決書を作成させる(不服の内容によっては、管理部長以下の職員が代理裁決される場合もあると考えられる。)。

④ 右裁決が下りると、区長が原告の房に赴いて所長回答を告知する。その内容は、「現状を変更しない。」等の短い紋切型のものであり、判断の理由については、告知されないことが多く、告知される場合でも、「監獄法令による。」などという紋切型のものである。そして、原告が右回答内容について質問した場合でも、区長は「回答の権限がない。」「納得がいかないなら、また所長面接を出せばよい。」というにすぎない。

(3) 被告は、所長面接の実施は、本件拘置所長の完全な自由裁量に委ねられていると主張しているが、本件拘置所長が一五年以上もの長期間にわたって在監者と全く面接しないのは、規則九条一項の趣旨を完全に没却させるものであり、また、国際連合の被拘禁者処遇最低基準規則三六条一項も「各被拘禁者は、各平日に、施設の長又はこれを代理する権限を与えられた職員に対し、要求又は不服申立てをする機会を与えられなければならない。」と定めているのであり、所長面接の実施が、所長の完全な自由裁量に委ねられているとはいえない。

(4) 以上によれば、本件拘置所長は、原告の面接申立に対して、本訴提起の平成二年を基準として、過去三年間に少なくとも六回は原告と面接する法令上の義務があったにもかかわらず、正当な理由なくこれを怠り、原告の法的利益を侵害したのであるから、本件所長の右行為は規則九条に違反し違法である。

(二) 被告の主張

(1) 所長面接制度の趣旨

規則九条一項の所長面接制度は、在監者の教化処遇の向上と監獄管理の適正な運営を図ることを目的とし、情願(法七条)の対象よりも幅広い事項(監獄の処置のほか一身上の事情を含む。)について、在監者の苦情、希望等を聴取する機会を設け、その不満、懸念、煩悶を解消させることが妥当であるとして認められた制度であって、情願以前の簡便な苦情処理手続の一環として位置付けられるものと解される。

(2) 本件措置の適法性

右の趣旨からすれば、所長面接に関し、在監者にはその申請権はなく、面接するか否かは所長の自由裁量に委ねられているというべきである。規則九条一項に「面会ス可シ」というのも、面接することが妥当である趣旨を表現したものであって、所長に法令上の義務を負担させる趣旨ではない。

したがって、本件措置について、そもそも違法性の有無の問題は生じえない。

しかも、本件拘置所長は、原告の処遇の状況を承知しうる立場にある職員をして、その苦情を聴取、報告させたうえ、その回答を原告に伝えさせていたのであって、原告の苦情申立の機会及びその意思が所長に通ずることを保障していたのであるから、本件措置には何ら不当な点はないというべきである。

2  消滅時効

(一) 被告の主張

(1) 前記第七の二の2の(一)の(1)のとおり、民法七二四条の「損害ヲ知リタル」とは、損害が違法な行為により生じたものであることの認識をいう。そして、違法性の認識とは、加害行為が違法とみられる可能性のある事実の認識をいい、一般的には、加害行為の行われた状況から通常違法性を認識しうるか否かによって判断される。

(2) 本件第八措置のうち別表3No.1ないし7の各措置については、当時原告において右認識を有していたことは多言を要せず、本件提訴時までに既に三年を経過しているから、損害賠償請求権は時効により消滅している。被告は、本訴において右消滅時効を援用する。

(二) 原告の主張

原告は、過去三年間の面接申請合計二一回(別表3No.8ないし28)のうち少なくとも半年に一回合計六回は面接すべきであったとの主張を前提に損害賠償を求めているのであるから、消滅時効は成立しない。

三  争点に対する判断

1  前記一の事実に、証拠(甲一、一〇、乙二、証人水上要、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

原告は、昭和五〇年七月に本件拘置所に移監されてから平成二年七月六日までの間、一〇〇回以上所長面接を申請した。なお、昭和六二年五月八日以降の申請は、合計二八回であった。

原告が文書で右申請をすると、所長から指名された担当の保安課長補佐は、原告の申請書を閲読し、不服の具体的内容や根拠等の記載がない場合には追加提出を指示した上で、本件拘置所長に原告の申請の内容を報告しその回答を受け、原告に右回答を告知している。その際、原告が保安課長補佐に対し、右回答内容について質問したことがあったが、保安課長補佐は右回答内容以外の回答をすることはなかった。

2(一)  所長面接について定めた規則九条は、在監者からの情願について定めた法七条、規則四条ないし八条と同様、在監者の教化処遇の向上と監獄の管理運営の適正を図ることを目的とするものと解される。

しかしながら、情願が、監獄の長の処置に関して不服がある場合に法務大臣又は巡閲官吏に対して申し立てるものであって、その申立の方法、なすべき審理及び裁決についても規定されているのに対し、所長面接は、監獄職員の処置を含む監獄の処置一般や在監者の一身上の事情を対象とし、その手続については規則九条二項において面接の申請及び面接の際監獄の長が述べた意見を面会簿に記載する簡易な方法が規定されているに過ぎないことから考えると、所長面接は、監獄の長が在監者から広く在監者の苦情、希望等を聴取し、その機会に在監者の不満、疑念ないし煩悶を解消せしめることによって、前記目的を達成しようとする制度であると解するのが相当である。

したがって、在監者の申請について監獄の長がこれに応じて直接面接するか否かは、制度目的を達成する範囲内でその裁量に委ねられているというべきであり、監獄の長の面接しないことが裁量権を逸脱していると認められない場合には、違法の評価は受けないというべきである。

(二)  右1のとおり、なるほど本件拘置所長は原告の多数回の申請に対し一度も直接面接しておらず、所長回答の告知の際の保安課長補佐の対応も画一的であって、規則九条の趣旨に沿う対応をしているといえるか否かには疑問を差し挟む余地も考えられないではない。

しかしながら、前記第九の三の1の(三)及び右1のとおり、本件拘置所には約一六〇〇名が在監しているところ、原告一名で三年二か月の間に二八回の所長面接の申請があったものであるから、本件拘置所全体では相当数の所長面接申請があったと推認されること、原告が所長面接において検討を希望する事項については補佐者を介して本件拘置所長に伝達され、それに対する回答も告知されていること等の事情に照らせば、本件第八措置が裁量権を逸脱した違法なものであると認めることはできない。

第一一  本件第九措置について

一  争いのない事実

1  原告は、昭和六二年五月二〇日、本件拘置所長を被告とする行政訴訟(昭和六二年(行ウ)第六〇号事件)を東京地方裁判所に提起するとともに、右訴訟に係る訴訟救助付与の申立(昭和六二年(行ク)第二六号、以下「本件救助申立」という。)をした。

2  本件拘置所長は、右裁判所に同年七月一三日付上申書及び疎乙第一ないし第三号証を提出して、本件救助申立の却下を上申した。本件拘置所長が提出した右書類中には、原告の領置金額のほか、原告が未決勾留中に設けた振替口座に新聞社から原稿料等が振り込まれた事実、原告の過去二年間(昭和六〇年七月から昭和六二年六月まで)の支出の内訳(各月の支出費目及び金額の一覧表)並びに原告が昭和五二年から同六二年までに行った法務大臣情願、国会情願及び政府への抗議文発信等七〇件の内容とその顛末一覧表等が記載されていた(以下、右行為を「本件第九措置」という。)。

二  争点

1  原告の主張

(一) 国家公務員法(以下「国公法」という。)一〇〇条は、職員は職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならないと規定しているが、訴訟手続において、右守秘義務が解除されるのは、法令による証人、鑑定人等となる場合又は訴訟の当事者として攻撃防禦上やむをえない事情が生じた場合に限られる。

(二) 本件拘置所長は、当該行政処分取消訴訟の当事者であるが、原告の本件救助申立事件につき法律上の利害関係を有さない者であるから、本件拘置所長において、その守秘義務が解除される正当な理由に当らないというべきである。しかも、本件拘置所長が裁判所に提出した書類は、訴訟記録として編綴されるから、民事訴訟法一五一条により原告の秘密が公開されたのと同じ結果となってしまうのである。

(三) 被告は、本件第九措置が訴訟救助制度の濫用を防止する目的でなされた旨主張しているが、かかる事実はないし、仮に右事実が認められたとしても、守秘義務が免除されるところの「公益」目的とは、当該公務員の本来の職務に関連があり第一次的に判断権を有する事項に限られる。本件拘置所長は、ある訴訟救助の申立てが公益に反するか否かを第一次的に判断しうる立場になく、守秘義務が免除されるものではない。また、本件第九措置が公益目的により正当化されるためには、①原告の申立てが認められると公益が害される事態が生じる相当の蓋然的可能性があり、②右事態を防止する手段として本件措置に合理性があることが必要である。しかるに、当該訴訟救助の対象となる費用は数万円程度に過ぎず、これにより国庫の正常な運営が阻害されるおそれは極めて低く、また、本件措置により確実に生じる通信の秘密やプライバシーの侵害と比較して均衡を欠くものであるから、本件措置は正当化されない。

(四) よって、本件拘置所長が行った本件措置は、原告の重要な秘密(とりわけ通信の秘密は憲法二一条により保障されている。)を原告の同意なく公表し、裁判所に予断を与えて原告の訴訟進行に不利な影響を与えようとしたものであるから、国公法一〇〇条に違反し違法である。

2  被告の主張

(一) 守秘義務に関する法的解釈について

国公法一〇〇条は、当該事項が漏洩されたならば、公務の民主的・能率的運営を確保するという目的が阻害されるおそれがある事項について国家公務員による漏洩行為を禁止して守秘義務を課しているものと解すべきであるから、国家公務員がもっぱら公益を図る目的で職務上知りえた情報を公表する場合は守秘義務違反に当たらないというべきである。

(二) 本件措置の適法性

民訴法は一一八条において訴訟救助の要件を定め、その濫用を防止しようとしているところ、本件拘置所長が原告の領置金の残高等を当該行政処分取消訴訟が係属する裁判所に知らせたのは、原告の申立てが同条の要件を具備していないという事実を裁判所に知らしめ、訴訟救助制度の濫用を防止する目的のためであって、専ら公益を図る目的で行われたものである。

したがって、本件措置が守秘義務の対象となる事項について発表したものであったとしても、専ら公益を図る目的で行われたものであるから守秘義務違反には当たらない。

三  争点に対する判断

1  前記一の事実に、証拠(甲一、一八、乙二、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、昭和五二年以降、本件拘置所の原告に対する処遇等について争う民事訴訟ないし行政訴訟を多数提起してきた。

(二) 本件拘置所長は、原告が本件拘置所長を被告として提起した行政訴訟に関する訴訟救助付与の申立てについて、原告がそれまでに多数の訴訟を提起していること、これらの訴訟に関し原告が訴訟費用を納入したとの事実を確認できていなかったこと等から、原告には濫訴傾向があり、原告のなした訴訟救助付与の申立てが民事訴訟法一一八条の要件を欠く不適法な申立てであると判断し、その事実を裁判所に知らせ訴訟救助制度の濫用を防止する目的で、昭和六二年七月一三日付けで、裁判所に対し、右救助申立ての却下を求める意見書を提出し、その際、原告に関する収入、資力、濫訴傾向及び勝訴の見込みの有無等を明らかにするため、原告に関する昭和六〇年七月から昭和六二年六月までの領置金収支状況、同年四月ころの振替口座の振込状況並びに昭和五二年から昭和六二年五月までに行った法務大臣に対する情願、国会への請願及び政府への抗議文発信等の状況を書面化したものを疎明資料として提出した。

2  そこで、右各事実を前提として、本件第九措置について判断する。

(一) 原告は、本件第九措置が、原告のプライバシーないし通信の秘密を侵害し、原告の訴訟進行に不利な影響を与えようとした違法なものである旨を主張している。

(1) ところで、まず、本件拘置所長が裁判所に開示した内容のうち、法務大臣に対する情願、国会への請願及び政府への抗議文の点については、右各文書の性格からしても、原告においてもその公開を容認していたものと認められる。

次に、本件拘置所長が原告の領置金収支状況及び振替口座の振込状況について開示した点については、原告の領置金収支状況及び振替口座の振込状況は、もともと原告の資力の有無の判断資料として原告において提出する必要性があったともいいうるものであって、本件第九措置の執られた状況の下においては、秘密として保護される必要性が高かったものとはいいがたい。

(2) また、訴訟救助付与決定は原則として当事者が負担すべき訴訟費用の支払いを国との関係において猶予するものであって、訴訟救助制度の濫用を防止することは公益に属する事柄であること、訴訟の相手方は、訴訟救助付与決定がなされた場合に右決定の送達を受け、右決定に即時抗告することは明文で否定されておらず(民事訴訟法一二四条(なお、即時抗告の可否については、裁判例においても積極、消極の両説が対立していることは、当裁判所に顕著な事実である。))、申立人に資力があることが判明した場合等に救助の取消を申し立てることができる(同法一二二条)ことに鑑みると、訴訟の相手方は訴訟救助付与決定手続に関与しうる地位にあるというべきであって、右決定手続において相手方が同法一一八条の要件を満たないことを主張し、そのために必要な疎明資料を提出したとしても、申立人が同条の要件を具備していることを知りつつ、ことさら申立人の訴訟活動を妨げる目的でなされたような場合でない限り、違法と評価することはできないところ、右(一)のとおり、本件拘置所長は原告の提起した行政訴訟の被告であって、かつ、原告の経済状況を知りうる立場にあったものであるから、原告の訴訟救助申立てが民事訴訟法一一八条の要件を欠くと判断したことにも一応の根拠があり、また、訴訟の相手方(本件拘置所長が右事件で被告とされた国の一機関であることは、言うまでもない。)として、その手統上の地位に基づく行為を行うにあたり、疎明資料として原告の領置金収支状況及び振替口座の振込状況等を書面化したものを添付したものであって、ことさら原告の訴訟活動を妨げる目的でなされたものとは認定するに足りる証拠はない。

(3) 以上を総合すると、本件第九措置が原告に対する不法行為を構成するとは認め難い。

(二) なお、原告は、本件第九措置が国公法一〇〇条に違反する旨主張しているが、そもそも同条は、国家公務員の国に対する職務に関する義務を定めた規定であって、仮に右規定に違背したとしても、そのことが原告との関係で直ちに国家賠償法上違法とされるものではないことは明らかである。

第一二  本件第一〇措置について

一  前提となる事実(以下の事実は、括弧内にその認定証拠を掲げた事実を除いて、当事者間に争いがない。)

1  原告は、昭和六二年三月二三日、原告の外部支援者による寄せ書き文字入りTシャツの差し入れの不許可処分や信書の削除等について、国及び本件拘置所長を被告とし、丁海花子ら一二名を共同原告として、福岡地方裁判所に損害賠償等請求事件を提起した(昭和六二年(ワ)第六九八号事件、以下「福岡訴訟」という。)(甲一、乙二、証人水上要)。

2  昭和六二年四月二一日、原告に対する死刑判決が確定したことから、本件拘置所長は、同月二七日以降、原告の接見交通を原則として禁止し、親族、弁護士との交通など、当局が特に必要性を認めた場合に限って右禁止を解除する取扱いを開始した。

3  原告は、昭和六二年五月六日及び八日、右共同原告のうち一一名について「外部交通許可申請書」を提出して接見交通の許可を申請したが、本件拘置所長はこれを不許可とした。また、平成元年一一月九日、右共同原告計一二名について、再度接見交通の許可を申請したが、本件拘置所長はこれを不許可とした。福岡訴訟は、これまで合計一三回以上の口頭弁論が開かれたが、本件拘置所長は一度も原告の出廷を許可しておらず、原告は福岡訴訟について共同原告と打合せができない状態にある。

4  そこで、原告は、共同原告を使者として福岡地方裁判所に訴訟記録の謄本または訴訟記録の内容の証明書を請求し、これにより共同原告が裁判所に提出した準備書面等の書類の内容を把握して、訴訟の方針を決める方法を取り、同裁判所はその都度原告に訴訟記録の謄本または内容証明書を送付してきた(甲一)。

ところが、本件拘置所長は、平成元年七月二五日、同裁判所から原告宛てに送付された訴訟記録の内容証明書六通について、拘禁目的に反するとの理由からこれを閲読不許可として領置する処分(ないし差し入れ不許可処分)を行った。また、本件拘置所長は、平成二年二月二八日、内容証明書三通についても右と同様の処分を行った(以下、右内容証明書等を「本件各証明書」、右各処分を「本件第一〇措置」という。)。

二  争点

1  原告の主張

(一) 法四八条は、所長に対して、在監者宛てに送付された公文書につき、当該文書が公文書であるか否かを確認するための「被閲」のみを許し、公文書であることが確認されれば必ずこれを在監者に対して交付するよう命じており、在監者に宛てた公文書の閲読制限を許すいかなる法令の規定も存在しない。

にもかかわらず、本件拘置所長は、公文書であることが明らかな本件各証明書について、拘禁目的を理由に閲読不許可としたのであって、右処分は法令上の権限なく行われたものであるから、本件第一〇措置は法四八条に違反し、違法である。

(二) 本件第一〇措置が差し入れ不許可処分であったとしても、本件第一〇措置は違法である。

(1) 監獄法令は、差し入れを許す物品の種類については厳しい制限を設けているが(規則一四二条、一四三条、一四四条等)、差入人については「在監者ノ処遇上害アリト認ムルトキ」にのみその差し入れを制限すべきことを定めるにとどまる(規則一四六条二項)。右規定は、受刑者の更正と社会復帰を妨げるような人間関係の発生や継続を制限することを目的としたものであり、具体的にはいわゆる暴力団関係者からの差し入れを制限することを目的としたものである。したがって、監獄法令は差入人を親族に限るというような一般的制限を予定していないのであり、他の方法をもってしては本人の逃走やそれに準じる違法な事態が生じるのを防ぐことができないような切迫した状況が生じた場合にのみ、所長の判断でその範囲を制限することが許されると解される。

本件第一〇措置についは右のような事情はなく違法である。

(2) 被告の主張するとおり、差し入れが在監者の処遇上害があるか否か判断できない場合にその許否が監獄の長に委ねられているとしても、その裁量の幅は在監者の拘禁目的によって大きく異なる。受刑者の場合、本人の矯正と社会復帰という拘禁目的から、暴力団等犯罪性のある交遊関係を断つべく監獄の長の判断で差入人を制限することも許されるが、死刑確定者の場合、右の拘禁目的はないから、差入人との関係が不明であるというだけで、差し入れを制限することはできない。

裁判所書記官作成の内容証明書付き文書のうち、右証明書以外の部分は、右証明書に添付された引用文書であり、全体として一つの公文書となるから、本件各証明書の差入人が福岡地方裁判所であることは明らかである。

(3) 通常共同訴訟であっても、他の共同原告の弁論や証拠が事実認定の資料とされうるのであるから(民事訴訟法一八五条)、他の共同原告の訴訟行為が原告の訴訟追行に影響を及ぼす可能性は十分にあり、本件各証明書の内容を知ることについて原告は具体的な利益を有する。

2  被告の主張

(一) 死刑確定者の外部交通について

死刑確定者の外部交通について、法四五条一項、四六条一項及び五三条が適用されるが、右各規定は在監者の外部交通の許否を監獄の長の裁量的判断にかからしめているものと解される。そして、死刑確定者の拘禁について要求される社会からの厳格な隔離と心情の安定を図る責務等にかんがみれば、右判断に当たっては、監獄における拘禁の確保及び社会不安の防止等の見地のみならず、死刑確定者の心情の安定に資するか否かをも考慮しなければならない。右見地から定められた「死刑確定者の接見及び信書の発受について」(昭和三八年三月一五日矯正甲第九六号矯正局長依命)によれば、死刑確定者の拘置目的等に照らし、①本人の身柄の確保を阻害し又は社会一般に不安の念を抱かせるおそれのある場合、②本人の心情の安定を害するおそれのある場合、③その他施設の管理運営上支障を生ずる場合には、おおむね許可を与えないこととしている。

本件拘置所においても、死刑確定者の接見及び信書の発受に関する取扱いに関し、一般的にはこれを制限し、本人の親族(ただし、死刑確定後の外部交通の確保を目的として未決拘禁中に養子縁組を結ぶに至ったと認められる場合など、死刑確定者の法的地位に照らし、許可すべきでない者を除く。)、本人について現に係属している訴訟の代理人たる弁護士、その他本人の心情の安定に資すると認められた者について、外部交通を許可することとし、それ以外にも裁判所又は権限を有する官公署あるいは訴訟の準備のための弁護士との外部交通について、本人の権利保護のために必要かつやむを得ないと認められる場合にはこれを個別に許可する扱いとしている。

(二) 在監者への差し入れについて

法五三条一項は、「在監者ニ差入レヲ為サンコトヲ請フ者アルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ許スコトヲ得」と規定し、在監者に対する差し入れの許否を監獄の長の裁量に委ねる規定の仕方をしている。

これを受けて規則一四六条二項は、差入人との続柄等同条一項に定める事項について調査した結果、その差し入れが在監者の処遇上害があると認めるときはこれを許さない旨を規定しているが、法五三条二項が「差出人ノ氏名若クハ居所不明ナルトキ」は「没入又ハ廃棄スルコトヲ得」と規定していることからみて、規則一四六条二項の規定は、差入人の氏名等が不明であるため差し入れが在監者の処遇上害があるか否か判断できない場合には必ずしもこれを許可すべきとするものではなく、その許否は監獄の長の裁量に委ねられていると解すべきである。

(三) 裁判所書記官作成の内容証明書付き文書の法的性質

法四八条は、「裁判所其他ノ公務所ヨリ在監者ニ宛テタル文書」につき、規則一三〇条の定める検閲とは異なり、単に披閲する旨規定している。右規定の趣旨は、公文書は一般的な信書とは異なり拘禁目的を阻害するおそれが希薄であることから、公文書であることを確認するためその形式及び内容を検査するという披閲をすることとしたものである。したがって、同条にいう文書とは、形式のみならず実質的にも裁判所その他の公務所又は公務員が職務上作成した文書すなわち公文書をいう。

裁判所書記官作成の内容証明書付き文書は、裁判所書記官が作成した証明書という公文書が添付された一件書類をいうにすぎないのであって、右証明書以外の書類は訴訟関係者が当該訴訟において裁判所に提出するために作成した書類というべきであるから、右証明書以外の書類は法四八条に規定する公文書に当らない。

ことに、裁判所は在監者の現在の動静を把握しているわけではないのであるから、仮に裁判所から送付された書類につき無制限に閲読を許可することとした場合、その内容に拘禁目的を害する内容の記載があったとき、あるいは当該書類を直接作成した者につき施設が拘禁目的達成のためにこの者と在監者との外部交通を認めていないときなど、かかる者との外部交通を維持させることは少なからず拘禁目的の達成に支障が生ずる結果を招来することになる。したがって、当該裁判所から送付された書類を披閲して公文書であるか否かを確認した結果、裁判所又は公務員が職務上作成した文書ではなく、単に裁判所を介して送付されたにすぎない場合には、一般文書として差し入れに関する法五三条が適用されるべきである。

(四) 本件措置の適法性

(1) 福岡地方裁判所から原告宛てに送付された文書は、いずれも福岡訴訟の共同原告丁海らが同訴訟に関しそれぞれが作成した文書等に原告名義で同裁判所に提出された証明書交付請求書及び右請求書に基づく裁判所書記官作成の証明書が添付されていた。

本件拘置所において、右文書を検討したところ、裁判所書記官の証明書が付されているものの、その証明対象文書が裁判所書記官が職務上作成した文書ではなかったことから、公文書と認めることはできず、裁判所を経由した差入物の性格を有する一般文書とみて法五三条が適用されると判断した。そして、右文書は、表面上は原告の請求に基づき同地裁が送付した形を装っていたが、原告から裁判所に宛てた発信の事実がないこと及び右請求書が原告には作成不可能なタイプ浄書により作成されたものであることなどから、原告の名をかたった第三者の請求に基づき送付されたものであることが認められたところ、そうだとすれば、右文書の実質的な差入人も当該第三者であるとは推認されるものの、差入人の氏名等を特定することはできず、右文書のうちの一部を除き原告の処遇上害があるか否かが不明であった。

(2) また、原告らが提起した福岡訴訟は、必要的共同訴訟ではなく、原告ら各自が独立して訴訟遂行をなしえたにもかかわらず、共同訴訟の形態を利用したにすぎないのであるから、右文書の交付が制限されたとしても、原告の訴訟遂行上、何ら影響を与えるものではない。

(3) 仮に、原告が主張するように、右請求書を原告の意思に基づいて作成・提出する事務を担ったのが獄外の共同原告であるならば、右共同原告らは、そもそも本件拘置所の死刑確定者の外部交通の取扱いに照らして許可される相手方ではないところ、かかる手段による裁判所を経由した第三者からの送付物を公文書とみなして無制限に原告に交付した場合には(裁判所は、在監者の動静も知りえず、また、在監者の拘禁目的について局外の立場にあるから、その適否を判断することもできない。)、本件拘置所における外部交通の取扱いを没却させ、ひいては死刑確定者の拘禁目的を達成する上で障害が生ずることとなるのであるから、いずれにせよ前記証明書以外の添付書類は差し入れが許可されるべき文書ではなかった。

(4) したがって、本件拘置所長が差し入れを不許可とした判断には合理性が認められ、これに基づく本件措置は監獄の長に認められている裁量権の行使の範囲内で行われたものであって、適法である。

三  争点に対する判断

1  前記一事実に、証拠(甲一、一〇、一八、乙二、証人水上要、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、死刑判決が確定する約一か月前の昭和六二年三月二三日、原告の外部支援者による寄せ書き文字入りのTシャツの差し入れ等を許可しなかった本件拘置所の措置等が違法であるとして、当時原告の共犯として本件拘置所に収容中の刑事被告人一名及び原告の外部支援者一一名と共同原告となって、前記福岡訴訟を提起した。なお、本件拘置所長は、右福岡訴訟自体が、原告と福岡訴訟の共同原告らとの外部交通を確保するために提起されたものではないかとの疑問を有していた。

(二) 平成元年四月二六日、福岡地方裁判所は、原告宛に、福岡訴訟の共同原告が同訴訟に関し作成した意見書、求意見書等に、これらが裁判所に提出された文書であることの証明書交付請求書及び右請求書に基づく裁判所書記官作成の証明書を添付した書類一一点を送付した。右の書類のうち、意見書等には「甲野さん、お元気ですか」といった原告宛の手紙のような内容のものもあった。しかし、証明書交付請求書は、原告名義でタイプ浄書により作成されており、原告が自ら右裁判所宛に右請求書を発信した事実はなかった。

本件拘置所長は、右書類が、法四八条の規定する公文書にはあたらず、裁判所を経由した差入物たる一般文書であるものとした上で、原告が裁判所に右請求書を発信した事実がないこと及び右請求書が原告には作成不可能なタイプ浄書であったことから、差入人たる請求者が原告以外の氏名不詳の第三者であり処遇上害があるか不明であると判断し、併せて福岡訴訟が必要的共同訴訟でないことも考慮し、右書類の差し入れを認めることなく、裁判所宛に返送した。

同年七月一〇日、裁判所は、本件拘置所に対し、右書類を再送付し、再返戻の措置を取らないよう依頼した。

本件拘置所長は、右書類一一点のうち五点については、文書の形式及び内容から法四八条の規定する公文書であると見做して、原告に交付したが、その余は前記同様の理由で差し入れを許可しなかった。

(三) 平成二年一月二七日、裁判所は原告宛に(二)と同様の書類五点を送付した。 本件拘置所長は、同様の理由で、うち二点は原告に交付し、その余は差し入れを許可しなかった。

2(一)  まず、本件第一〇措置が、法四八条に違反するものであるかを検討する。

法四八条は、「裁判所其他ノ公務所ヨリ在監者ニ宛テタル文書は披閲シテ本人ニ交付ス」と規定しているが、その趣旨は、公務員が職務上作成した文書は一般的に本人の権利義務に関して重要な文書であり、拘禁の目的を阻害するおそれが少ないことから、法四六条の例外として、在監者に交付することを定めたものと解することができる。

本件各書類は、なるほど形式的には裁判所書記官が職務上作成した文書であるが、その主要な部分は福岡訴訟における共同原告らの意見書等であって、裁判所書記官作成の証明書は右意見書が訴訟に提出されたことを示す定型的・付加的なものに過ぎず、全体としては実質的に右共同原告らの作成した文書ともいうべきものであって、法四八条の趣旨が妥当しないことは明らかであるから、法四八条の規定する公文書には当たらないと解するのが相当である。

したがって、本件第一〇措置が、法四八条に違反するとはいえない。

(二)  次に、本件第一〇措置が、法五三条に違反するものであるかを検討する。

死刑確定者の拘禁は、逃亡を防止し死刑の適切な執行を確保することを目的とし、そのためには本人の心情の安定の確保に対する特段の配慮が必要であり、外部との交通を一定限度制限せざるをえないこと、拘置所は多数の在監者を収容し、これを集団として管理する施設であること、およそ物品は、その本来の用途以外にも通常の予測をこえた目的・用途に利用されるおそれがあること等の点に鑑みれば、法五三条一項は、死刑確定者についても、規則において差し入れを不許可とすべき場合として明文で定める場合を除き、拘置所長が、目的物の性質、形状、内容、差入人と死刑確定者の人的関係等諸般の事情を考慮して、その裁量により差し入れの許否を決するものとしていると解するのが相当であるところ、本件第一〇措置は、1で認定したとおり、当時、本件拘置所において、実際に裁判所に証明書交付請求書を提出し、裁判所を利用して本件書類を送付した者を特定できなかったものであるから、本件拘置所長において、本件各書類が処遇上害があるか否か不明であるとして、差し入れを不許可とした判断には合理的な根拠があるといえるから、右措置が裁量権を逸脱した違法なものであるということは出来ない。

第一三  本件第一一措置について

一  争いのない事実

原告は、前記死刑判決確定後の昭和六二年九月、葛飾区内の現住所(本件拘置所所在地)に住民登録した。

葛飾区選挙管理委員会は、昭和六三年九月二日、公職選挙法の規定により選挙人名簿の登録を行ったが、原告については死刑確定者であることを理由として右登録をしなかった。原告は、同月三日、公職選挙法二四条一項により右処置に対する異議を申し出たが、葛飾区選挙管理委員会は同月八日付で右申出を棄却し、以後右委員会は選挙人名簿への原告の登録を拒否している(以下「本件第一一措置」という。)。

平成二年二月一八日、衆議院選挙及び最高裁判所裁判官国民審査が実施されたが、原告は選挙人名簿に登録されていなかったため、投票することができなかった。

二  争点

1  原告の主張

(一) いわゆる選挙犯罪以外の一般犯罪により禁錮以上の刑に処せられた者(以下「一般犯罪受刑者」という。)の選挙権の停止を定めた公職選挙法一一条一項二号及び三号は違憲である。

(1) 憲法四四条は、国会義員及びその選挙人の資格は法律でこれを定めるものとしているが、右は、立法府に対して、選挙人の範囲の決定について自由裁量を付与したものではなく、法律により国民の選挙権を制限する場合には、第一に、制限の目的が正当で憲法に適合するものであり、第二に、制限の手段が右目的との関係で合理的かつ必要最小限のものであることを満たす必要がある。

まず、公職選挙法の目的は、国会議員等の選挙が選挙人の自由に表明した意思によって公明かつ適正に行われることを確保することにより、民主政治の健全な発展を期することを目的とするものであり(同法一条参照)、憲法一五条に照らして正当である。

次に、公職選挙法一一条一項二号及び三号が右目的達成のために合理的手段とされるのは、一般犯罪受刑者が選挙権を行使した場合に選挙の自由性、公明性あるいは適正性が阻害される相当高度の蓋然性が理論的に認められる場合である。しかしながら、身柄を拘束されている在監者が不正な投票を行うことは物理的にほとんど不可能であり、一般犯罪受刑者に投票を認めたことで選挙の自由性、公明性あるいは適正性が阻害される理論的可能性は全くなく、むしろ、民主政治の健全な発達のためには、投票を通じて受刑者を国政に参加させることによって、その自主性及び民主社会の市民としての自覚を促し、かつ受刑者全体の法的地位の向上(基本的人権の確立)を図ることが必要であるというべきであるから、公職選挙法一一条一項二号及び三号が規定している一般犯罪受刑者の選挙権の停止は、前記立法目的(公職選挙法一条)を達成するための合理的な手段であるとは認められない。

したがって、公職選挙法一一条一項二号及び三号の規定は、不合理な差別にあたるのであって、憲法四四条ただし書に反し、違憲である。よって、東京都葛飾区選挙管理委員会が右公職選挙法の規定を根拠にして原告を選挙人名簿に登録せず、平成二年二月に行われた衆議院議員の総選挙に関する原告の投票権を奪った行為も違憲であるというべきである。

(2) なお、公職選挙法一一条が、同法一条に掲げられた目的以外に犯罪一般の予防の目的をも有すると解したとしても、違憲である。すなわち、受刑者にとって、選挙権は自己の法的権利・利益の保全や向上を図るための最後の一線ともいうべき重大な意味を持つ権利であるし、また民主主義の核心は国民が主権者として法制定過程に主体的に関与し、かつその法の実現に主体的に責任を負う点にあるところ、最も直接的かつ強力な法の支配下に置かれる受刑者等が自ら従うべき法の制定や改廃等の政治過程から排除されるのは民主主義の根本原理に背くこと、自由刑に選挙権の停止を付加することによって期待できる犯罪一般の抑止効果の向上率はほとんど計測しえないような微々たるものにすぎないことに鑑みれば、一般犯罪処刑者の選挙権を停止することによって得られる憲法上の利益とその選挙権の停止によって失われる一般犯罪受刑者の憲法上の利益を比較衡量すると、後者の利益が前者の利益よりも大きいといえるからである。

(3) また、遵法精神の有無は、個人の内心の問題であって憲法一九条によりその自由を保障されているから、被告の指摘する一般犯罪者の遵法精神の欠如は選挙権を制限する理由とはならない。

(二) 以上によれば、公職選挙法一一条一項二号及び三号の規定が違憲であることは明らかであり、かかる明白な違憲性を有する法を定立し放置し続ける立法者あるいは公職選挙法の執行により生じる違法な結果の発生を回避するのに十分な権限と右権限を積極的に行使する義務を有する内閣総理大臣には、本件不法行為の発生について、少なくとも不注意による過失の責任は免れないというべきであるから、本件第一一措置による不法行為の直接の加害者である公務員が地方公共団体に所属する者であっても、被告国は右不法行為により生じた後記損害を賠償する義務がある。

2  被告の主張

(一) 公職選挙法一一条一項二号の合憲性

公職選挙法一一条一項二号は、合理的理由に基づいて選挙権に関する制限を規定したものであって合憲である。すなわち、禁錮以上の刑に処せられた者は、確定判決の効力によって拘禁されているものであり、死刑確定者についていえば、死刑執行に必然的に付随する手続として一般社会とは厳に隔離されるべき者として拘禁されているのであるから、拘禁目的及び性質に照らし合理的な限度で基本的人権に対する制限を加えることが許されると解される。そして、選挙権の制限に合理性が認められるのは選挙の公正さが阻害される相当の蓋然性が認められる場合であると解される(公職選挙法一条)ところ、選挙犯罪に限らず、およそ犯罪を犯して禁錮以上の刑に処せられた者は違法性の極めて高い反社会的行為を行った者であり、著しく遵法精神に欠け、公正な選挙権の行使を期待できないと認められるのであるから、刑の執行が終わり、あるいは執行を受けることがなくなり、健全な法規遵守の精神を回復したと認められるまで、その選挙権の行使を制限することには合理的理由が認められるというべきである。

(二) 本件措置の適法性

死刑確定者である原告は、公職選挙法一一条一項二号に該当する者であり、選挙権を有しないことは明らかであるから、選挙人名簿に登載されないことは法律上当然のことであり、本件措置に何ら違法はない。

三  争点に対する判断

前記第三の一の1及び第一三の一のとおり、本件第一一措置は、原告の爆発物取締罰則違反被告事件の死刑判決確定後、本件拘置所在監中に、葛飾区選挙管理委員会は、原告が死刑確定者であることを理由に選挙人名簿に登録をしなかったというものである。

原告は公職選挙法一一条一項二号及び三号の規定が憲法四四条に違反する旨主張するところ、憲法四四条は、国会議員の選挙人の資格について、不合理な差別を禁止しているが、原告は、爆発物取締罰則違反被告事件で死刑判決が確定し、本件拘置所で現に身柄を拘束されている者であって、その選挙権を制限することは合理的な理由があり、本件第一一措置は憲法四四条に違反するものでないというべきである。そうすると、原告は公職選挙法一一条一項二号により選挙権を有しない者であって、葛飾区選挙管理委員会の措置に違法はないから、その余の点につき判断するまでもなく、本件第一一措置に関する原告の請求は理由がない。

第一四  結論

以上によれば、原告の請求はすべて理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官宗宮英俊 裁判官八木一洋 裁判官中山雅之)

別表

1 朝日新聞抹消箇所一覧表

No.

日付

抹消の態様

1

1987.11.24 夕刊

2

2ヵ所

約1,100字

2

11.25 朝刊

1

約3,300字

3

30

1ヵ所

約2,500字

4

31

1ヵ所

約4,300字

5

11.25 夕刊

1

1ヵ所

約1,700字

6

15

2ヵ所

約3,700字

7

11.26 朝刊

27

1ヵ所

約1,500字

8

11.26 夕刊

15

1ヵ所

約1,150字

9

11.27 朝刊

1

1ヵ所

約2,100字

10

4

1ヵ所

約2,300字

11

9

1ヵ所

約  20字

12

31

1ヵ所

約 650字

13

11.27 夕刊

23

1ヵ所

約 950字

14

11.28 朝刊

1

1ヵ所

約2,100字

15

11.28 夕刊

1

1ヵ所

約2,400字

16

11.29 朝刊

1

1ヵ所

約 860字

17

4

1ヵ所

約 140字

18

31

1ヵ所

約1,200字

19

11.30 朝刊

1

1ヵ所

約  12字

20

17

1ヵ所

約 15cm2

21

27

1ヵ所

約1,500字

別表

2

No.

処分

年月日

事犯名

処分等

規律違反行の内容

1

S51.1.14

大声を発した件

軽屏禁(文禁)

15日

S50年12月25日午後7時15分ころ,居房内において××××,○○○○等の同舎に収容中の被告人と呼応し「東アジア反日武装戦線弾圧反対」等断続的に大声を発した。

2

S51.2.18

点検拒否

叱責

S51年2月10日午後4時55分ころ,夕点検において自己の両足をひろげ居房中央に立ちはだかり「不当懲罰に抗議する」等申し向け点検を無視し,点検拒否をした。

3

S51.8.13

職員暴行・房扉乱打及び大声・点検妨害・暴言・指示違反

軽屏禁(文禁)

40日

(1) S51年4月14日午後2時25分ころ,

① 東京地方裁判所701号法廷において裁判長より退廷命令を受けた際,被告人専用通路において戒護職員に対し顔面に唾を吐き更に腹部,大腿部を足蹴りする暴行をなし,よって戒護職員に全治4日間の傷害を与え,

② 同日,退廷により地裁仮監に還房した後も退廷執行を不満とし「区長を呼べ」等の大声を発し,房扉を足蹴にした。

(2) 同年6月17日午後2時5分ころ,東京地方裁判所701号法廷において裁判長より退廷命令を受けた後,地裁仮監に還房収容した際,戒護職員に対し大腿部を一回足蹴りする暴行をなし,よって戒護職員に全治3日間の傷害を与え,

(3) 同年5月19日午前7時2分ころ,獄外獄中春季統一行動を企図し,同調者と相呼応して「保護房粉砕」等職員の制止に従わず大声を発し,

(4)

① 同年6月25日午後2時17分ころ,居房内より相被告人○○○○が診察のため連行されるのを見て「嫌がる者を何で連れ出すんだ」等大声を発しながら房扉を足蹴りし,

② 同月27日午前9時10分ころ,相被告人○○○○が診察のため連行される際「ハンスト反対」等と大声を発したことに呼応して,同人も「ハンストを妨害するな」等大声を発し,

③ 同月28日午後3時20分ころ,診察のため出房させた際「強制補給反対」等大声を発し,更に,同日午後3時55分ころ,診察終了後自己の居房にさしかかった際「強制補給させられたぞ」と大声を発し,その際職員に対し暴言を吐き,

(5) 同年6月26日の開房点検から同年7月21日の閉房点検までの間,獄中闘争の手段として点検拒否を行った。

4

S52.3.30

職員暴行・房扉足げり大声・指示違反

軽屏禁(文禁)

10日

(1) S51年11月10日午前7時18分ころ居房内において獄中獄外秋季統一行動日と称して内外相呼応して「天皇在位50年を粉砕するぞ」等大声を発し,更に房扉を足蹴りし,

(2) 同年12月24日午後5時5分ころ,東京地方裁判所701号法廷において,相被告人○○○○が退廷命令を受けたことに対し相被告人等とスクラムを組んで妨害し,本人に対しても退廷命令が発せられた際,職員の手を掴み,足蹴りするなどの暴行をなし,

(3) S52年2月17日の開房点検から同年3月7日の閉房点検までの間,定められた点検方法に従わず点検を拒否した。

5

S52.8.4

指示違反

軽屏禁(文禁)

10日

(1) S52年3月8日午前7時20分ころからの開房点検から同年6月30日午後4時38分ころからの閉房点検の際,定められた点検方法に従わず点検を拒否し,

(2) 同年4月5日午前9時2分ころ,運動のため出房した際,運動場において関連被告人が運動していることを本人が察知したため,他の運動ボックスを指定したところ激怒し職員の胸ぐらを掴む暴行をなし,

(3) 前記行為について区事務室に連行する際,舎房廊下において大声を発し,

(4) 同年6月9日午前7時1分ころ,居房外側窓より「懲罰を撤廃せよ」等大声を発した。

6

S52.12.13

指示違反及び職員暴行

軽屏禁(文禁)

20日

(1) S52年7月1日午前7時20分ころからの開房点検から同年11月30日午後4時44分ころからの閉房点検の際,定められた点検方法に従わず点検を拒否し,

(2) 同年10月14日午後3時40分ころ,東京地方裁判所702号法廷において,相被告人××××に対し退廷命令が発せられた際に,その執行を妨害し,また本人に対しても退廷命令が発せられたため職員が法廷外に連行せんとしたところ,戒護職員の股間を足蹴りする暴行をなし,全治7日の傷害を与えた。

7

S53.5.11

指示違反・大声

軽屏禁(文禁)

10日

(1) S52年12月1日午前7時17分ころからの開房点検からS53年3月31日午後4時42分からの閉房点検の際,定められた点検方法に従わず点検を拒否し,

(2) S53年2月16日午前7時18分ころ,居房外側窓より「保安房撤廃」等の大声を発した。

8

S53.8.23

指示違反及び大声

軽屏禁(文禁)

10日

(1) S53年4月1日から同年7月31日までの間,開房点検及び閉房点検の際,職員からその都度点検は定められた位置で受けるよう指示されていたにも拘らず,これを無視して読書・筆記等をしたりして指示に従わず,

(2) S53年6月1日午後零時5分ころ,居房内において懲罰執行停止時間の終了に伴い,訴訟資料・筆記具の提出を指示されたにも拘らず,これに従わず新二舎係長に対し大声で「訴訟妨害をやめろ」などと数回にわたり怒号し,舎房の静謐を著しく乱した。

9

S53.12.27

指示違反

軽屏禁(文禁)

6日

S53年8月1日から同年11月30日までの間,開房点検及び閉房点検(出廷当日の閉房点検を除く)の際,職員からその都度点検は定められた位置で受けるよう指示されていたにも拘らず,これを無視して読書・筆記等をしたりして指示に従わなかった。

10

S56.3.4

不正合図

軽屏禁(文禁)

5日

S56年2月18日午前10時45分ころ,本人を診察のため新二舎運動場から同舎廊下を連行中,他の居房をのぞき込むようにしながら,同階5房収容中の者に対し,右手を頭上まで上げて『やあ』と合図し,もって不正合図を行った。

11

S57.5.12

指示違反(拒食)

軽屏禁(文禁)

5日

S57年4月24日の昼食から監獄法改悪阻止闘争に連帯すると称して,居房内においてハンストを始めたため,新二舎係長及び係職員から健康保持のため喫食するよう指示されていたにも拘らず,これを無視して同月28日夕食までの間の計14食を拒食した。

12

S58.1.26

指示違反(残飯投棄)

軽屏禁(文禁)

5日

居房窓等から残飯などを投棄してはならないことを指示され,かつそれを知しつしていながら,S58年1月9日ころ,居房内において居房外側窓から大さじ1杯分くらいの残飯を投棄した。

13

S63.2.24

物品(釘)の不正隠匿

軽屏禁(文禁)

10日

S63年2月9日午後1時20分ころ,捜検係り職員によって発見されるまでの間(期間の特定は不可能),居房内において先端のみが白く光っている長さ約6.3センチメートル,直径約3ミリメートルの釘を居房用ほうきの柄部分に押し込んで不正に隠匿した。

14

S63.3.30

物品不正製作

叱責

S63年1月ころ,居房内において習字の際に使用するためと称し自己所有の箸箱内に自弁の石鹸を割って押し込み,「文鎮」を製作した。(3月2日,捜検で発覚)

【注】(文禁)は文書図画閲読禁止を示す

別表

3

昭和62(1987年)4月27日から平成2年(1990年)9月30日までの間の所長面接申立て一覧表

No.

日付

趣旨

1

1987.5.8

①弁護士発信についての不服

②所長面接の方法についての不服

2

5.30

図書の閲読不許可についての不服

3

6.11

発信の取扱いについての不服

4

6.19

①接見交通制限についての不服

②発信取扱いについての不服

5

7.7

書類の房内所持制限についての不服(不服の具体的内容の記載は拒否)

6

7.9

親族との交通制限についての不服

7

9.19

入浴時の処遇についての不服(不服の具体的内容の記載は拒否)

8

11.30

妻との交通制限についての三つの不服

9

12.10

雑誌の取扱いについての二つの不服

10

12.22

妻との交通制限についての不服

11

12.24

新聞の没収廃棄についての不服

12

1988.3.28

懲罰に関する不服

13

3.31

冬期処遇打切りについての不服

14

4.1

物品強制領置についての不服

15

5.2

贖罪についての相談

16

5.20

弁護人面会時間についての不服

17

7.2

戸外運動についての不服

18

10.17

医療についての二つの不服

19

10.25

図書の取扱いについての不服

20

11.28

妻との交通制限についての不服

21

1989.7.18

同上

22

8.11

発信の取扱いについての不服

23

9.12

妻との交通制限についての不服

24

10.31

差入制限についての不服

25

12.20

戸外運動についての不服

26

居房についての不服

27

1990.1.19

弁護士との交通制限についての不服

28

7.6

妻との交通制限についての二つの不服

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